(※画像はイメージです/PIXTA)
実家は下町、「透明人間」として双子だけの世界で生きてきた
二人の人生は、40歳まで質素そのものでした。質素というより地味という言葉が似合うかもしれません。
墨田区の古い実家で、真面目な会社員の父と、倹約家の保育士の母のもとに育ったMさんとKさん。同級生たちが夢中になるような娯楽も恋愛も経験せず、二人が没頭したのは年間500冊にもおよぶ読書でした。友達付き合いも苦手で、話し相手はお互いだけ。進学した高校も大学も、アルバイト先も、姉妹で同じ。さらに就職先も同じでした。驚かれると同時に、少し揶揄されるような存在だったようです。
閉じた姉妹の関係のなかで、彼女たちは読書の世界に逃避することで、誰からも気に留められることのない「透明人間」として生きてきました。
転機は5年前、両親が交通事故で同時に亡くなったことでした。どちらも未婚のまま、姉妹は40歳になっていました。遺されたのは両親が長年の倹約によって築いた1億2,000万円の貯蓄と、父母合わせて4,000万円の生命保険金。そして古いけれど戸建ての実家。実家は売却し約8,000万円になりました。相続税を払っても相当な大金が残ったのです。
その大金をなにに使おうかと、二人は話し合いました。旅行に行く、投資をする、運転免許を取って温泉に行く、北海道に移住するなど、いろいろとアイデアが出ましたが、最終的な答えは「マンションを買う」でした。
「いっそのこと、職場近くの港区のタワーマンションはどうだろう……」
そのアイデアはすぐに自分たちで否定しましたが、時間が経つほど魅力的に感じるように……。そして1ヵ月あまり悩んだ末に、両親が残した財産と自分たちの預貯金の一部を合わせ、新築のタワマンの中層階を購入しました。
地味に生きてきた姉妹がなぜ港区のタワマンを選んだのか。そこには姉妹が抱えてきた「透明人間」というコンプレックスがあったのかもしれません。
誰もがひれ伏す気がした「港区タワマン」の価値
引っ越して早々、彼女たちは「港区」という記号が持つ魔力を痛感することに。デパートや金融機関の窓口で住所を書くたび、相手の態度が劇的に変わるような気がします。「こちらにお住まいなんですか。素晴らしいですね。私にはとてもとても」相手はそういってやけに丁寧な対応をします。
これまで存在すら認識されていなかった自分たちが、住所一つで特別な存在として扱われる――。この感覚は、彼女たちが生まれて一度も経験したことのないものでした。たかが家。その住所と建物の名前だけで自分たちを特別な人かのように扱ってくれるとは。
しかし、本当にその住所をみて態度を変えたわけではありません。そのように感じただけなのです。自分たちの願望から都合よく解釈しただけの話。つまり自意識過剰ともいえます――。
姉妹の自意識は拡大していく一方でした。朝のエレベーターで乗り合わせる、エルメスのバッグを無造作に持つ美しい女性。地下駐車場に並ぶ高級SUV。子供を連れてすれ違う母親の高級そうな時計。そういった姿を目にするたびに、自分たちもまたその住民たちと同じ立場なのだと思い込むようになっていきます。墨田区の四畳半の子供部屋で育った過去を忘れたかのように、自分たちには経験したことのないライフスタイルを真似しだしたのです。