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住民税の高額な請求がきた理由
二人の合算月収は約50万円。住宅ローンはないものの、高額な管理費や修繕積立金、固定資産税、そして周囲に合わせるための見栄代が、彼女たちの手元から現金を奪い去りました。
「そろそろタワマンでの暮らしは終わりにしなければならない、それはわかっているけれど……」姉妹は、それをいうことさえ恐れていました。預貯金がゼロになっても、マンションを売却して、そのお金で中古マンションを買えば済む話です。あとは会社員として働いて、売却費の残りに毎月貯金をしていけば、ごく普通の人生を送っていけるはず。「試しにタワマンに住んでみた」という話のネタにしてもいいでしょう。しかし姉妹にそのような冷静さはありません。特別扱いされることの快感に依存していました。挙句の果てに、勤務先を退職。平凡な会社員という肩書すら耐えられなくなったからです。
「忙しいエグゼクティブに代わり、贈答品の選定やホームパーティを演出する」と謳い、タワマン生活で得た付け焼き刃の作法を切り売りするコンサル業を開始。しかし、実体験を伴わないSNS情報の焼き直しは、本物の富裕層からは即座に見抜かれ、依頼ゼロ。経営者の肩書きを守るための固定費だけが、姉妹の命綱である退職金を猛烈な勢いで食いつぶしていきました。売上ゼロのまま、起業は失敗。当然、収入もゼロ。翌年には会社員時代の住民税の高額な請求がやってきたのです。
実は、誰も自分のことをみていない
区役所の職員が困惑したのは、彼女たちが「お金を持っていない」からではないと思います。ブランドマンションという大きな資産を持ちながら、それを手放して楽になることよりも、他人の視線を優先して困窮を選んでいる、その心の歪みに驚いたのではないでしょうか。
払えないのではなく、払おうとしない。その身勝手さも。本人たちにとっては、承認欲求を満たすこの環境を手放したくないと思っています。むしろ売れば生活は余裕でできる。でもそれ以上にまた透明人間に戻るのは嫌。同窓会にも呼ばれたことがなく、大学卒業後も付き合っている友人はゼロ。勤め先でもいてもいなくてもいい存在。長年、外部との交流を持たず、双子二人だけの閉ざされた関係の中で生きてきた彼女たち。
しかし、タワマンにしがみついているのは、単なる幻想でしかありません。人間には、自分が思う以上に、他人が自分に注目していると思い込む「スポットライト効果」という心理的バイアスがあります。港区の住人は、隣人がデパートの紙袋を持っているか、どのブランドの服を着ているか、実は驚くほど無関心です。彼らは自分の生活を守ることに必死か、あるいはもっと上の本物の富を追うことに夢中で、他人の記号を採点する暇などないでしょう。
姉妹を「特別な存在」として扱った店員や窓口の態度は、個人への敬意ではなく、単なる属性へのマニュアル対応でしかありません。たとえタワマンという記号を手に入れてそこに必死に馴染もうとしても、実際のところは「透明人間」のままなのかもしれません。
長岡理知
長岡FP事務所
代表