高齢者向けの住まいには多くの選択肢があります。しかし注意しなければならないのが、多額の一時金を支払い、コンシェルジュやクリニックが併設された老後の住まいを手に入れたとしても、そのサービスが「一生続く」保証はないという点です。本記事では、FPの川淵ゆかり氏のもとへ寄せられたAさんの相談事例から、社会情勢の変化に翻弄されるシニア住まいの実態に迫ります。※事例は、プライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
「老後の一番の楽しみを取り上げられました…」資産2億円・亡夫の遺族年金を受け取る77歳母。3,000万円で“シニア向けマンション”入居も…施設から一方的に通知された〈残酷な宣告〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「最初はよかったんですが…」

入居してしばらくは新たな暮らしを満喫していたAさん。ですが、生活を続けていくにつれ、この場所特有の息苦しさがみえてきました。

 

息苦しい人間関係

入居者同士の距離が異常に近いグループがいて、毎日顔を突き合わせては誰かの噂話で盛り上がっています。特にグループの中心人物のような人には、逆らうと空気が一変する様子を何度か目の当たりにしました。

 

一人で静かに過ごしたいAさんが誘いを断ると、冷たい視線を向けられ、その後はひそひそと噂をたてられているような気配を感じました。Aさんは失礼な態度を無視していたものの、じわじわと精神的に追い詰められていく感覚を覚えます。

 

便利な生活はどこへ…

さらに、施設のサービスの質も変容していきました。入居当初は、スタッフが片付けや書類の手続きといった小さな頼みごとも快く引き受けてくれたため、一人でいても孤独感を感じることもなかったのですが、数ヵ月後、サービスに応じて料金が細かく設定されるように。それからしばらくすると、「人件費の高騰」という理由でそれぞれの料金の値上げが一方的に通知されました。なにをするにもお金がかかり、困ったことがあってもお願いすることをためらわざるをえないのです。値上げしているにもかかわらず、気が付けばスタッフの人数自体も減少。いつも忙しそうで、対応にも時間がかかり事務的になってしまい、Aさんは気軽に声をかけることすらできなくなってしまいました。

 

そして、Aさんが一気に不安を募らせたのは、併設されていたクリニックの突然の閉鎖です。具合が悪くなってもバスやタクシーに乗って病院に行かなければなりません。お金の心配ばかりをして、気軽に外出もできなくなり、部屋の中に閉じこもりテレビの前から動かない生活を送るようになりました。

 

入居者同士の会話も減り、ほかの入居者も苦しさを抱えているのが自然と伝わってきます。孤独と金銭的負担が重くのしかかってきて、入居時に感じた安心感は消えてしまいました。

 

運営体制への不安は的中し、さらに半年もすると、「運営会社が変更になった」と通知が出ました。さらなる管理費等の値上がりに、Aさんをはじめとした入居者たちは辟易としていきます。節約のためかプールは急に立ち入り禁止となり、料金アップで利用者が減ったカラオケルームも物置状態と化します。

 

最もショックだったのは、この状況下で唯一の楽しみでもあった食事です。以前の食事は、種類も豊富で手作り、家庭的な味でとても満足していましたが、これも運営会社が変わったせいか、冷凍食品を温めたような味に。とても健康的とは思えなくなりました。Aさんも含め、「老後の一番の楽しみは食事なのに」という声があちこちから聞こえましたが、みんなが波風を立てたくないため、それ以上苦情もいえません。

 

自炊をしようと思っても一定額は食費として毎月かかってきますし、買った食材を持って歩けるような距離にスーパーもなく、危ないからと自転車も禁止されています。「好きな料理すら作れないのか」とAさんは何度も思いました。便利だと思っていたシニア向けマンション生活は、老後の楽しみを奪う窮屈な暮らしへと変わっていったのです。