高齢者向けの住まいには多くの選択肢があります。しかし注意しなければならないのが、多額の一時金を支払い、コンシェルジュやクリニックが併設された老後の住まいを手に入れたとしても、そのサービスが「一生続く」保証はないという点です。本記事では、FPの川淵ゆかり氏のもとへ寄せられたAさんの相談事例から、社会情勢の変化に翻弄されるシニア住まいの実態に迫ります。※事例は、プライバシーのため一部脚色して記事化したものです。
「老後の一番の楽しみを取り上げられました…」資産2億円・亡夫の遺族年金を受け取る77歳母。3,000万円で“シニア向けマンション”入居も…施設から一方的に通知された〈残酷な宣告〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

「健康でいなければ追い出される」

実はこのシニア向け分譲マンション、所有権のある資産ですが、認知症や介護状態のケアに対応されているわけではなく、共同生活の場であるため、認知症や要介護状態が進行すれば退去を命じられる規約になっています。つまり、退去となればグループホームなどを探して最後の生活を送ることになるのです。

 

Aさんは当然契約時にこのことを知っていましたが、毎日のようにジムに通っている元気な80代の入居者が「健康でいないと追い出されるから頑張っているんだよ。頭と体を動かし続けないと住み続けられないし、次はどんな生活が待っているかわからないからね」といっていたのが印象的でした。

 

入居時の説明では、「クリニックが併設され、介護サービスも充実」とありましたが、あくまでも日常的なサービスレベルであり、そのクリニックすらいまはなくなってしまいました。

 

この住まいは、Aさんが求めた“安心の終の棲家”ではなく、“不安しかない仮の住まい”に過ぎなかったのです。

 

娘が面会しにきたときには「家に戻りたい」と切に訴えました。娘は、「え? マンションのことは兄さんに任せっきりだったからわからないけど、ずっと面倒みてくれるんじゃないの? だって3,000万円も出したんでしょ」とびっくり。クリニックもなくなったことに娘は不安を覚え、兄たちに相談し、まだ売却していなかった郊外の一軒家に戻る準備を急ぎました。

 

現在は、子どもたちが調べて加入した民間の見守りサービスを利用しながら、我が家での一人暮らしに戻っています。「安心」をお金で買ったつもりでしたが、本当の安心は、住み慣れた家と、子どもたちの理解の中にあったようです。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表