「老後資金はあればあるほど安心」という考えから、国が推奨する年金の「繰下げ受給」を選択する人は少なくありません。受給開始を遅らせれば、1カ月ごとに0.7%、70歳までで42%、75歳までなら84%も受給額が増額されるからです。しかし、現役時代と同じように働き続け、受給額を最大化させた結果、思わぬ「落とし穴」に嵌まるケースがあります。ある男性の事例を見ていきましょう。
年金の繰下げなんて、やめときゃよかった…「年金受給額・上位0.1%」でも撃沈。72歳独身男性の後悔 (※写真はイメージです/PIXTA)

制度の落とし穴…「社会保障負担」と「可処分所得」の現実

厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金受給者の平均月額は15万289円。佐藤さんのように繰下げによって受取額を増やすことはできますが、すべてが良いこと、というわけではありません。

 

【厚生年金受給者・年金受取額の分布】

~10万円未満:25.8%

10万~12万円未満:12.7%

12万~14万円未満:11.5%

14万~16万円未満:12.2%

16万~18万円未満:12.8%

18万~20万円未満:11.3%

20万~22万円未満:7.6%

22万~24万円未満:3.6%

24万~26万円未満:1.5%

26万~28万円未満:0.5%

28万~30万円未満:0.2%

30万円~:0.1%

 

特に注意すべきは、以下の3点です。

 

1.医療費の3割負担

70歳以上でも、現役並みの所得があると判定されれば窓口負担は3割となります。繰下げによって年金額を増やしたことが、この判定ラインを超える原因になるケースは多いといえます。

 

2.介護保険料の段階的引き上げ

介護保険料は市区町村ごとに設定された所得段階に応じて決まります。年金額が増えれば、当然、納付額も高所得の区分に近づきます。

 

3.税制上の不利

公的年金等控除には上限があり、年金額が多いほど所得税・住民税の負担率も高まります。厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の所得に占める公的年金の割合は依然として大きいものの、額面が増えることで逆に「受けられる給付」や「軽減措置」が消失するリスクについては、十分に周知されているとは言えません。

 

結局のところ、年金受給において重要なのは「額面の最大化」ではなく、税・保険料・医療費を差し引いた「実質的な可処分所得」をどう設計するかです。

 

佐藤さんのように、健康を損なったタイミングで所得が高い状態にあると、増えたはずの年金がそのまま「負担増」にスライドしてしまう――何とも残念な結果になってしまいます。