(※写真はイメージです/PIXTA)
終活をしておらず、いざ意思確認をしたときにはすでに「本人の意思が分からない」
70代の女性で、アルツハイマー型の認知症とうつ病の現疾患があり、1年前から他の病院でうつ病の治療中でした。認知症の精査目的で、ある病院を受診し、入院後に食事がとれなくなり、最近は食欲も低下、元気もない状態でした。主治医は人工栄養の必要性を考えている、それに反して家族はそれまでの経緯を踏まえて看取りにいく方向でいいのではないかと考えている、といったケースです。
「本人の意思の時間軸」を捉えると、延命治療について、過去に本人の事前の意思表示はなく、また家族で話し合った経験もありません。現在の意思は、うつ病や認知機能障害のために意思決定能力が少しあいまいで、自ら食事も薬も飲めない。このままでは亡くなる可能性があることを伝えてコミュニケーションを試みても、本人は正確に考えることが難しく、現実認識さえも不明であるかのような表現をなさるといった状況です。同様に、未来像についても描きにくい感じはあるけれども、「早く家に帰りたい」という意思は把握できます。
他方で長男夫妻、次女、といった家族の気持ちは、「経口摂取が進まなければ、人工栄養は選択せずに看取りをする」方向で一致しています。ここまで見ると、本人の意思と家族の意向が一致しているから、そのまま自然にご自宅で最期を迎えられる方向でいいのではないか、と思えてきます。ところが、医学的判断においては、医療者の中でも意見が割れてきます。初診からの経過が非常に短いため、病状が改善可能なのかについて適確な判断が非常に難しい。そして、もし、うつ病による本人の意思表示への影響が大きいのであれば、薬剤の効果も期待でき元気に食べられるようになる可能性もある、という見解です。
最終的な結果としては、食事がとれない状態で3週間経過していたことから、早急な判断が必要になり、期間限定での中心静脈栄養というサポートのもとでうつ病の治療も実施しました。その結果、うつ病の治療には時間がかかりますが、5週間のケアで食事ができるようになり、自宅に退院されていきました。