長年勤め上げた会社を定年退職し、ようやく手に入れた自由な時間。現役時代、必死に家族を支えてきた自負がある男性にとって、老後はこれまでの功労をねぎらわれる穏やかな日々になると考えているでしょう。しかし、セカンドライフが平穏になるとは限りません。ある男性の事例を通じ、老後の生活設計における死角についてみていきます。
妻「平日は実家に泊まるので、家事は自分でやってね」に「まかせておけ!」と言ったものの…年金20万円・65歳リタイア夫の想定外【定年後に待ち受ける親の介護問題】 (※写真はイメージです/PIXTA)

仲の良い夫婦の誤算。役割分担が「足かせ」になったセカンドライフの始まり

40年にわたり物流会社で働いてきた加藤博一さん(65歳・仮名)。妻・真奈美さん(63歳・仮名)と結婚したのは30歳になる前でした。すぐに子宝に恵まれ、博一さんは仕事、真奈美さんは家庭という役割分担ができました。平日、博一さんの帰りは決まって遅かったといいますが、週末は必ず家族で買い出しに行く――そんな、どこにでもある家族であり、夫婦でありました。

 

そして65歳で博一さんは定年。月20万円ほどの年金を受け取り、「今日から自由だ! これからは夫婦の時間を大切にしよう」、そう考えた矢先、真奈美さんの実家から「母親の認知症が進み、自宅での生活が困難になった」と連絡が入ります。そして真奈美さんは悩み抜いた末、ひとつの決断を下しました。

 

「私、平日は実家に泊まって母の介護に専念したいの。申し訳ないけれど、家のことは全部やってくれるかな?」

 

もちろん「家のことはまかせておけ」と真奈美さんの背中を押した博一さん。しかし、これまで仕事に専念し、家事力はゼロ。言葉通りにはいかなかったそうです。

 

「洗濯機の洗剤をどこに入れるのかすらわからない。スーパーに行っても何をどう買えばいいのか、わからない。ゴミの出し方さえ、わからない。わからないことばかりで……すべて自分のことなんですが、定年後に家事に追われる生活になるとは。何かの間違いではと、何度つぶやいたことか」

 

荒れていく自宅に、たまに帰ってくる真奈美さんも驚いた様子だといいますが、疲れ果て、結局そのまま。


「定年退職して、『これからはセカンドライフ』と思っていましたが、ただ家事に追われることになるとは……とんだ想定外です」