日本人の平均貯蓄額は約1,900万円です。なかには、「うちはそんなにない……」と落ち込む人もいるかもしれません。 総務省の統計(2023年)によると、2人以上世帯の平均貯蓄額は1,904万円。中央値でも1,107万円です。しかし、この数字には退職金を受け取った高齢者層も含まれています。40代に限れば平均は800万円台まで下がりますし、20代〜30代では貯蓄ゼロ世帯も3割近く存在します。とはいえ、「年収が高ければ貯金も多いはず」というのは幻想にすぎないことも。実は、いわゆる「パワーカップル」であっても、貯金がゼロに近いというケースは決して珍しくないのです。
世帯年収1,650万円のパワーカップルだが、貯金はすっからかん…「時間をお金で買う」都内在住・40代共働き夫婦を待ち受ける、“老後破綻”の落とし穴 (※写真はイメージです/PIXTA)

合理化の果てにある「自転車操業」

「時間を買う」生活スタイルは、一度始めると抜け出すのが困難です。快適さを知ってしまうと、電車や自炊の労力に戻ることは「生活の質を下げる」ことと同義になり、強い抵抗感が生まれます。その結果、収入が増えても、それに比例して「忙しさ」が増し、その忙しさを埋めるためにさらに「時間を買う」出費が増えるというイタチごっこに陥ります。

 

ケンジさんとミサキさんの家計は、まさしくこの状態でした。「稼ぐために働く、働くために時間を買う、時間を買うためにお金が消える」というサイクルで回転しているため、手元には資産として残るお金がない。これが、高収入なのに貯蓄ゼロという現象の正体です。

 

「妻に退職金がない」という事実

「いまの時間を最大化する」という生き方は、現在を乗り切るためには有効ですが、未来に目を向けたとき、一つの懸念点が浮かび上がります。それは、妻であるミサキさんの退職金です。

 

夫のケンジさんは大手企業勤務であり、定年後にはそれなりの退職金が見込めます。しかし、ミサキさんが勤めるのは中小規模のIT企業であり、退職金制度がありません。もちろん、二人はその事実を知っています。しかし、目の前の忙しさと資金繰りに追われ、「老後のことはそのうち考えよう」と先送りにしてしまっていました。

 

いまや退職金がない企業というのはそう珍しくありませんが、その場合、本来であれば、より一層老後の準備は早めにすべきでしょう。しかし、現状は日々の時間を買うコストが優先されています。

 

いまは二人でバリバリ稼いでいるため、この問題は表面化しません。しかし、どちらかが働けなくなったり、定年を迎えて収入がダウンしたりすると、破綻してしまいます。子どもが手を離れれば負担も軽減しますが、手元の蓄えがなさすぎて、万一のときには生活レベルを劇的に下げざるを得ないという厳しい現実が待っているでしょう。

「時間を買う」生活を否定せず、予算化する

では、ケンジさんとミサキさんはどうすればよいのでしょうか。「明日からタクシーもデリバリーもやめて、すべて自分たちでやる」というのは現実的ではありません。それでは彼らの生活も仕事もパンクしてしまいます。

 

大切なのは、「時間を買うこと」を否定するのではなく、それに予算を設けることです。これまでは無制限にお金で解決してきました。これを、「生活を効率化するための予算は月10万円まで」といったようにルール化するのです。予算が決まれば、「今日は本当にタクシーが必要か?」「今日は簡単な自炊で済ませられないか?」と、コスパを考えるようになります。

 

「時は金なり」という言葉どおり、現代においてお金で時間を買うことは、賢い生存戦略の一つです。そのおかげで仕事に集中できたり、家族との笑顔の時間が増えたりするならば、それは素晴らしい投資です。

 

しかし、その投資が「未来の自分たち」を犠牲にしているとしたら、本末転倒ではないでしょうか。特に、退職金などの保証が薄い働き方をしている場合、現役時代の収入の一部は、未来の自分への仕送りです。「いまの忙しさを解決するお金」と「将来の安心を作るお金」このバランスを意識することこそが、高収入世帯が真の豊かさを手に入れるための第一歩となるはずです。