ここ数年、FIRE(経済的自立・早期リタイア)という言葉が広がり、SNSでは「いかに早く会社を辞めるか」「いくら貯めれば働かずに済むか」といった資産形成の話題で盛り上がっています。現代の労働環境に疲れた人々にとって、それが新たな希望の光であることは間違いないでしょう。しかし、FIREが必ずしも幸福な家庭を約束するわけではありません。むしろ、有り余る富と時間が、次世代の労働観を歪めてしまうこともあるようです。本記事では、Kさんの事例とともに、FIREの思わぬ落とし穴について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「平日も家で遊んでくれる父親に育てられました」…留学費用6,000万円も水の泡。資産18億円で20年前にFIREした父が育て上げた、一生働く気のない“自称・投資家”27歳無職の息子 (※画像はイメージです/PIXTA)

徹底して働く気がない息子

留学から戻ってきてからも、息子Uさんは働く気も勉強する気も一切なさそうでした。どこで覚えたのか、「投資家になりたい」「不労所得で生活したい」「ノマドの投資家になって世界中を旅したい」など、かっこいい言葉をうわ言のように繰り返します。

 

「投資をするにはタネ銭が必要だし、それを稼ぐためには働かなきゃいけない」そうKさんがさとしても理解できない様子。「元手はパパが僕にくれたらいいんじゃないの?」とUさん。

 

Kさんは「自分で働いて得たお金で運用を始めるのが投資だ」というのがポリシーです。自分の職業と収入があって、その信用で資金を調達してレバレッジをかけるのであればいいが、親や配偶者のお金を使って投資家気取りをする人間が嫌いなのです。

 

「U、それは甘えだぞ。まずはちゃんと働け」Kさんが何度そういっても、息子は聞く耳を持ちません。「会社なんてやりがい搾取でしょ? そのくせ社会保険料を引かれて手取りが少ないんでしょ? 僕らの世代は働くなんて罰ゲームだよ」とUさん。

 

「なにが“ぼくらの世代”だよ。20代の人達も、みんな必死で働いて生きているんだ」「パパは働いてないのにそれいうの?」とせせら笑う息子……。

 

27歳になってもまだこの程度の思考の成熟度であることに、Kさんは失望を隠せませんでした。おそらく息子にみせてきた自分の生活態度がよくなかったのだと痛感しています。Kさんが会社を売却したころ、FIREなんて言葉は聞いたこともありませんでした。自分は労働から逃げたつもりはなく、投資家として第二の人生を選んだつもりでした。もちろん体調が悪く、ゆっくりしたいという事情もありましたが、「働いていない」とは思っていません。投資家は心にたっぷり汗をかくビジネスなのです。

 

しかしこのままでは息子は無職で終わってしまう。そう思ったKさん、最近はまた自分の会社を作ろうとしています。もう働かなくてもいいKさんですが、自分一人だけの法人を設立し、都内のレンタルオフィスに個室を借り、毎日そこへ「出勤」することに。仕事をしている姿を息子にみせようと思うのです。いまさらかもしれませんが……。

 

仕事をしているふりではなく、本当に新しい事業にチャレンジしようとしています。54歳から新しい挑戦をしている姿は、いまのところ息子にどう映るのはわかりません。