ここ数年、FIRE(経済的自立・早期リタイア)という言葉が広がり、SNSでは「いかに早く会社を辞めるか」「いくら貯めれば働かずに済むか」といった資産形成の話題で盛り上がっています。現代の労働環境に疲れた人々にとって、それが新たな希望の光であることは間違いないでしょう。しかし、FIREが必ずしも幸福な家庭を約束するわけではありません。むしろ、有り余る富と時間が、次世代の労働観を歪めてしまうこともあるようです。本記事では、Kさんの事例とともに、FIREの思わぬ落とし穴について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。※個人の特定を防ぐため、事例は一部脚色しています。
「平日も家で遊んでくれる父親に育てられました」…留学費用6,000万円も水の泡。資産18億円で20年前にFIREした父が育て上げた、一生働く気のない“自称・投資家”27歳無職の息子 (※画像はイメージです/PIXTA)

父が「失敗だった」と反省している息子への教育

父Kさんが子育てのなかで間違えたことがもう一つあります。それは、Uさんに対して「お手伝いをしたら作業に応じて対価を払う」という方法をとったこと。

 

玄関の掃除=1回50円

キッチンの皿洗いの手伝い=1回50円

食卓の片づけ=1回30円

 

といった具合です。さらには、毎日の家庭学習に対しても対価を払うことにしてしまいました。

 

テストで90点以上なら1,000円

1日2時間勉強したら100円

 

一般の家庭の感覚からズレているように感じますが、父KさんはUさんにビジネス的な自立心を付けさせる英才教育のつもりだったのです。これが大きな失敗につながりました。最初こそUさんは夢中でお手伝いをしていましたが、毎月のお小遣いは3,000円程度。それに満足していたのですが、あるとき、すごいことに気づいてしまいます。

 

11歳のときのお正月、祖父母や親戚が集まり、お年玉が10万円を超えたのです。するとUさんは電卓を叩いてこう考えました。

 

「お手伝いや勉強をしてもらったお小遣い3,000円の33ヵ月分じゃん」

 

つまり、お年玉があれば毎月の労働収入は必要ない。だからお手伝いも勉強もしなくていいやと考えたようです。

 

働いていないのに裕福にみえる父親、仕事の疲れで不機嫌になる母親、そして意味をなさなくなった勉強……それらがすべて悪いほうへ影響したのか、Uさんの公立中学での学力は完全に落ちこぼれ、学年最下位クラスに。定期テストの点数は各教科一桁台でした。高校には進学できず、中学卒業からはずっと自宅にいるようになりました。

 

「パパみたいに働かずにお金持ちになって自由に生きたいな」そんなことをいう自分の息子に、驚きと情けなさと自らへの反省を強く感じたKさん。

 

アメリカ留学にやった息子のSNS投稿…「今日も勉強中」

そして今度は「環境を変えればなにかが変わるかもしれない」と考え、息子のアメリカへの高校留学を提案します。学力が低いながらも資金力で英語補習(ESL)付きの私立ボーディングスクールに入学させる手配を取りました。年間約6,000万円の学費と寮生活費を全額負担。新しい大陸の空気、多様な人種、文化の違い、そうしたものが、息子の目を覚ましてくれるのではないかと期待したのです。

 

しかし現地でのUさんは、ESLクラスには出席するものの、宿題や予習復習が続かず英語が苦手なままなので、クラスメートとの深い交流を避けます。一方で寮の一室でスマホとパソコンに向かい、インスタに「留学ハイスクール生活」を演出。英語の教科書を開いたセルフィーや、キャンパスカフェのノート写真をアップし、「今日も勉強中」とキャプションをつけます。それは、実態よりも中学の同級生に自慢するためのものでした。

 

同級生からはコメント欄でチヤホヤされたKさん。「卒業したら起業します」などと書くものの、わずか1年で低学力を理由に退学処分となりました。