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介護者の7割以上が抱える「苦しみ」の正体
親の介護中に「早く終わってほしい」といった否定的な感情を抱くことは、決して特異なケースではありません。むしろ、終わりの見えない在宅介護において、多くの人が直面する現実です。
厚生労働省が公表した『令和4年 国民生活基礎調査』によると、同居している主な介護者の悩みやストレスの有無について、「ある」と回答した人の割合は77.8%にのぼります。その原因として最も多いのが「家族の病気・介護」で75.5%を占めています。
また、内閣府の『令和5年版 高齢社会白書』では、65歳以上の者がいる世帯のうち、高齢者のみの世帯が半数以上を占めるなど増加傾向にあることが示されており、「老老介護」や、洋子さんのような独身の子どもが親を介護する「シングル介護」のリスクも高まっています。
介護者が抱く、死を願うような気持ちは、介護疲れや予期悲嘆の変形として語られることがあります。終わりが見えないストレス状況下で、自身の生存本能が「現状からの脱出」を求めた結果、そのような思考に至ることは、心理学的にも説明がつく反応です。
重要なのは、そうした感情を持つ自分を「冷酷だ」と責めないことでしょう。データが示す通り、多くの介護者が同様のストレスにさらされています。
在宅介護の限界を個人の精神力で乗り越えようとするのではなく、地域包括支援センターやケアマネジャーに「限界である」という事実を数字(家計状況や睡眠時間など)で伝え、生活保護の申請や特別養護老人ホームへの入所申し込みなど、物理的な解決策へ舵を切ることが求められます。
「親のための人生」ではなく、「自分の人生」を守るための決断は、決して親不孝ではありません。共倒れを防ぐための、必要な防衛策なのです。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』
内閣府の『令和5年版 高齢社会白書』