その日暮らしの生き方は、人生100年時代において老後破産に直結しかねません。特に国民年金のみの自営業者の場合、蓄えがなければ月数万円程度の極貧生活が待っています。貯金が尽き、裕福な家族とも疎遠な場合、最後の砦である生活保護は認められるのでしょうか。実は申請の現場では、家族の資産以上に、70代の高齢者ですら突きつけられる「意外な壁」が存在します。FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が、土屋さん(仮名)の事例を紹介します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
「宵越しの金は持たない」年金月5万円・貯金ゼロ。でも別居家族はお金持ちの73歳おひとり様、“生活保護申請”してみると…役所による〈意外な判断〉【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

国民年金を満額もらっている割合は非常に低い

土屋さんのように、老後の年金受給額が少ないケースは珍しくありません。厚生労働省の「令和5年度 厚生年金保険・国民年金保険事業の概況」によると、国民年金受給者(67歳以上)の老齢基礎年金の平均月額は5万7,700円です。満額に近い「月7万円以上」を受け取っている人は受給者全体の約6.8%に過ぎず、大多数は6万円未満で生活をやり繰りしなければなりません。

 

会社員であれば厚生年金が上乗せされますが、自営業者は国民年金のみです。土屋さんも若いころは納付していましたが、離婚後の生活の乱れや業績悪化による未納が響き、平均を下回る受給額となってしまいました。

申請窓口で突きつけられた「73歳への求職指導」

生活保護を申請する場合、居住地の「最低生活費」が基準となります。年金収入がある場合は、最低生活費から年金を差し引いた「差額」が支給されます。1級地-1から3級地-2までの6区分にわけられた級地区分を、生活扶助基準の第1類と第2類に、その他の加算額の合計が生活扶助基準額として計算します。

 

土屋さんの居住地(2級地-2)で計算すると、生活扶助基準額は以下。

 

第1類(個人的経費):4万3,200円

第2類(世帯共通経費):2万7,790円

特別加算など: 1,500円

【最低生活費合計】:7万2,490円

 

土屋さんの年金が月5万円なので、差額の2万2,490円が生活保護費として支給される計算です。これでようやく生活が少しは楽になる――そう思ったのも束の間、窓口で土屋さんは耳を疑う言葉を突きつけられました。

 

「まだ73歳ですので、まずは働く場所があるか探してください」

 

生活保護は、資産や能力などあらゆるものを活用することが要件です。健康状態に問題がなければ、高齢であっても就労の可能性を探るよう指導されることがあります。さらに懸念していたとおり、「扶養義務者(子どもや親族)」による援助ができないか確認するため、子どもたちへの連絡(扶養照会)が必要であるとも説明されました。

家族が裕福でも「生活保護」は認められるのか?

土屋さんのように「子どもに収入がある」場合、生活保護は認められないのでしょうか?

 

結論からいえば、要件を満たせば受給は可能です。生活保護の申請時、親族への扶養照会は原則行われますが、これはあくまで「援助が可能かどうか」の意思確認に過ぎません。親族に収入や資産があったとしても、本人たちに「扶養する意思」や「余力」がなければ、強制的に扶養を要請されることはないのです。子どもに経済力があっても、関係性が断絶しているなどの事情で援助が得られないのであれば、保護を受けることはできます。