「老後2,000万円問題」などが話題となり、将来資金が尽きることを恐れて現役時代から節約に励む人は多いものです。しかし、いざリタイア生活に入ったとき、金銭的な不安とは真逆の、「お金を使えなかった」という後悔に苛まれるケースが少なくありません。ある男性のケースを見ていきます。
もうステーキも喉を通らない…〈資産5,000万円〉〈年金月20万円〉77歳元高給取り、妻亡き後「金など、もっと使ってしまえばよかった」と涙のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者が「一番お金持ち」という日本の現実

佐藤さんのような事例は、決して珍しいものではありません。「老後資金2,000万円問題」などが話題となり、多くの日本人が「老後にお金が足りなくなること」を過剰に恐れています。

 

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査 二人以上世帯 令和5年度』によると、金融資産保有世帯において、保有額がピークになるのは60代で平均2,588万円。ピークを過ぎた70代でも平均2,188万円となっています。60代よりも前の世代では平均保有額が1,000万円台であることを考慮すると、いかに高齢者が“お金持ち”かがわかります。

 

このような状況であっても、将来への不安は大きいものがあります。内閣府『高齢者の経済生活に関する意識調査』によると、「現在の貯蓄額は、あなたがこれからの生活をしていく備えとして十分か?」という問いに対して、「十分」は36.7%、「不十分」が57.1%と、老後不安が大きいことがわかります。

 

この不安の要因のひとつが、長寿化。2024年の厚生労働省発表によると、日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳。65歳から年金生活がスタートするとして、平均寿命まで生きることを考えても、男性は15年、女性は20年以上も老後が続きます。その間、主な収入が年金となるわけですから、できるだけ資産寿命を延ばそうとするのは、当然のことです。

 

しかし、資産寿命を延ばすことだけに固執しすぎると、健康寿命とのギャップに苦しむことになります。体力や気力、そして好奇心は、年齢とともに確実に減退します。「何かあった時のため」という不安は理解できますが、70代、80代ともなれば、高額な消費活動をする機会自体が激減します。どんなにお金を持っていたとしても意味のないものになってしまいます。

 

お金が足りずに不安に思うか、お金を使う機会がなく後悔するか――そのバランスは、非常に難しいようです。

 

[参考資料]

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査 二人以上世帯 令和5年度』