「老後2,000万円問題」などが話題となり、将来資金が尽きることを恐れて現役時代から節約に励む人は多いものです。しかし、いざリタイア生活に入ったとき、金銭的な不安とは真逆の、「お金を使えなかった」という後悔に苛まれるケースが少なくありません。ある男性のケースを見ていきます。
もうステーキも喉を通らない…〈資産5,000万円〉〈年金月20万円〉77歳元高給取り、妻亡き後「金など、もっと使ってしまえばよかった」と涙のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

バブル崩壊を経験し、「お金を使うことに慎重になり過ぎた」77歳男性

都内在住の佐藤健二さん(77歳・仮名)。現役時代は、大手企業の営業職として世界を飛び回っていました。60歳定年時には3,000万円近い退職金を受け取り、現在の預貯金は株式などの金融資産だけで約5,000万円。世間から見れば、誰もが羨む「勝ち組」の老後を送っているように見えます。

 

「現役時代は、自分でいうのもなんですが、高給取りだった。バブル期は40代前半で人並みに浮かれていたけれど、そのあと、バブル崩壊を経験してからは、すっかり落ち着いて……とにかく将来のためにとお金を堅実に貯めてきた。預金口座の数字が増えることが、唯一の心の支えでした」

 

定年を迎えるころには、老後を見据えても十分すぎる貯蓄がありました。しかし、ちょうどそのタイミングで起きたのがリーマン・ショック。将来不安が大きくなり、60歳での退職は辞めて、再雇用の道を選択します。そして65歳になったころ、世間ではアベノミクスとかいって景気が良くなりそう、という雰囲気になってきたのを機に、やっと仕事を辞める決心がついたといいます。しかしそれでも、将来の不安は大きく、節制を心がけてきたそうです。

 

「年金は月20万円ほどあります。平均を大きく超える額であることは知っていますが、いつ、バブル崩壊のようなことが起きるかわからない。お金はできるだけ持っていたほうがいい、そう思っていました」

 

しかし、引退から2年後、43年の時を共に歩んできた妻・洋子さん(仮名・享年64歳)を、すい臓がんで亡くします。

 

「告知を受けてから、あっという間でした。人生100年時代、お互い、70代になったらもう少しお金を使って、やりたいことをやろう、色々なところに出かけよう……そんな話をしていたのですが」

 

慎重に慎重を重ねてきた人生。最近は「もっとお金を使えばよかった」と涙することもあるといいます。

 

「先週、久しぶりに美味しいものでも食べようと思って、テレビ番組で観た有名なステーキ店に行ったんです。でも、数切れ食べただけで喉を通らなくなって、結局ほとんど残してしまいました。若いころはお金がなくて食えなかった。今はお金があるのに体が受け付けない……本当に情けない」