バブル崩壊後の不況期に社会へ出た「就職氷河期世代」が、いま深刻な窮状に直面しています。懸命に働いても生活は楽にならず、病気ひとつで破綻しかねない脆弱な基盤。ある非正規労働者の悲痛な叫びと衝撃的なデータから、その知られざる実態に迫ります。
「風邪をひいたら、人生終了です。」週6勤務で手取り月16万円、非正規52歳男性が吐露する将来不安。氷河期世代を襲う「恐ろしい悲劇」 (※写真はイメージです/PIXTA)

氷河期世代含む「ワーキングプア」の悲劇的実態

田中さんのような事例は、決して極端な「特殊なケース」ではありません。いま、日本社会の底流では、働いているにもかかわらず最低限の生活さえ維持できない「ワーキングプア」が、構造的な問題として定着しつつあります。

 

この問題の本質を読み解く鍵は、「就職氷河期世代」の高齢化にあります。バブル崩壊後の採用抑制期に社会に出たこの世代は、現在40代半ばから50代前半を迎えています。新卒時に非正規雇用とならざるを得ず、そのまま不安定な雇用形態から抜け出せないまま中年期に達した人々が数多く存在するのです。

 

2025年12月1日、株式会社アーラリンクが発表した調査データは、まさにこの世代が直面する恐ろしい悲劇を浮き彫りにしました。同社が40歳以上の非正規雇用者(契約社員、派遣社員、パート・アルバイト等)431名を対象に行ったアンケート調査によると、全体の60.0%が「働いても生活が苦しい」と回答。対象である「40歳以上の非正規雇用者」には氷河期世代が多く含まれていることから、この結果は非正規雇用・氷河期世代の実態と言えるでしょう。

 

特に衝撃的なのは、48.0%が「社会保険(健康保険・厚生年金など)に未加入」であるという事実。若いうちは体力でカバーできた無理も、40代、50代となれば通用しません。生活習慣病やがんのリスクが高まる年齢であるにもかかわらず、約半数が医療やセーフティネットから切り離されているのです。田中さんのように「病院に行けば生活が破綻する」という状況は、もはや個人の責任論で片づけられるレベルを超えています。

 

また、経済的な脆弱さも限界に達しています。「急な出費(病気・ケガ、家電の故障など)に対応できない」と回答した人は54.0%と半数を超えました。数万円程度の出費が発生しただけで、即座に生活が立ち行かなくなる層がこれほど厚く存在しているのです。さらに、21.0%が「来月の収入が見通せない」と回答しており、シフト制や日雇いといった不安定な雇用形態が、将来設計はおろか「来月の生存」すら不透明にさせています。

 

「保険に入れず、病気をしたときが本当に怖い」(40代/派遣社員)

「体調で働けないとその月は生活が破綻します」(50代/パート・アルバイト)

 

長きにわたり不安定雇用に留め置かれた氷河期世代が、今後、高齢期に突入します。医療も介護も受けられないまま孤立していく――「風邪をひいたら人生終了」という田中さんの言葉は、決して大げさではないのです。

 

[参考資料]

株式会社アーラリンク/誰でもスマホ リサーチセンター『勤労感謝の日に向けた生活困窮者の働き方・生活実態調査』