(※写真はイメージです/PIXTA)
妻の「イメチェン」理由
妻はひとりっ子で、幼いころから「女の子だから」と厳しく育てられていました。さらに「これからは女の子もレベルの高い大学、大企業への就職すべきだ」と言われ続け、親に言われるがまま就職。そして、親の勧めで大企業勤めのAさんと結婚。親の敷いたレールの上を歩み続けてきたのです。
妻は静かに語りはじめました。
「親の言うとおりに人生を進んで、結婚、出産したけれど、育児は私に任せっきりで、家庭内は別居状態。息子が独立したら、いままでとは違った生活をしてみたかったの。あなたとこのままの状態を続けるかどうかは、これから考えるわ」
Aさんは、「確かに、育児に協力的でなかったことは否定しない。でも、それが会社を辞めることとは関係ないだろう」と反論します。
しかし妻の決意は固いものでした。
「いままでの私の人生は、親の敷いたレールに従ってきた。これからは自分のやりたいようにする」
(おとなしかった妻はいったいなにをしたいのか……)Aさんは考えあぐねても、まったく想像がつきませんでした。
「推し色」に染まってロックバンドへ
妻は「卒婚」し、バンドを組んで楽しみたいというのです。もともと長く習っていたピアノの経験を活かしてキーボードを購入し、ひそかに練習をしていたようです。SNSで知り合った友人のロックバンドのグループに入るとのこと。
そして、衝撃的なピンクの髪については、こう笑顔で答えました。
「私、ずっと推しているバンドがいるんだけど、その推しのメンバーカラーがピンクなの。一度でいいから、推しと同じ色にしてみたかったのよ」
大人しかった妻が豹変し、まさかのロックバンドに「推し活」。夫は言葉を失いました。
妻は、いままで大企業で働いた給与で資産形成をしており、自身の退職金とあわせて5,000万円もの資産があります。今後も投資をしながら、人生を楽しみたいと卒婚を希望しているのです。
自由なセカンドライフで失う「お金」
しかし、ファイナンシャルプランナーの視点で試算すると、彼女の決断は経済的にみれば「莫大な損失」であることも事実です。もし彼女がこのまま定年までの約10年間、大企業に勤め続けた場合、現在の年収700万円ベースで考えても給与総額は7,000万円以上。さらに定年時の退職金などを加味すると、将来得られるはずだった金額は1億円以上にも上ります。
彼女は、その「1億円」という確実な経済的利益を捨ててでも、自分のやりたいことをやる「ノンストレスの人生」を選んだのです。妻にとって残りの人生の時間は、1億円を積まれても譲れないほど「プライスレス(お金で買えない価値)」なものだったのでしょう。