定年まで勤め上げ、夫と静かに老後を過ごす――。どうやら、それだけが「正解」ではなくなったようです。典型的な幸せの枠から抜け出し、長い間封印してきた本来の自分を取り戻すこと。まったく新しい「セカンドライフ」を歩むための、現代的な生き方の一つなのかもしれません。本記事では社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が、Aさんの事例から、人生後半戦の多様な選択肢について考えます。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
大人しかった妻の「豹変」に驚愕しました…世帯年収1,500万円だった夫婦。50歳妻が突如大企業を早期退職、髪を「ピンク」に。恐る恐る聞いた“ワケ”に夫絶句【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

妻の「イメチェン」理由

妻はひとりっ子で、幼いころから「女の子だから」と厳しく育てられていました。さらに「これからは女の子もレベルの高い大学、大企業への就職すべきだ」と言われ続け、親に言われるがまま就職。そして、親の勧めで大企業勤めのAさんと結婚。親の敷いたレールの上を歩み続けてきたのです。

 

妻は静かに語りはじめました。

 

「親の言うとおりに人生を進んで、結婚、出産したけれど、育児は私に任せっきりで、家庭内は別居状態。息子が独立したら、いままでとは違った生活をしてみたかったの。あなたとこのままの状態を続けるかどうかは、これから考えるわ」

 

Aさんは、「確かに、育児に協力的でなかったことは否定しない。でも、それが会社を辞めることとは関係ないだろう」と反論します。

 

しかし妻の決意は固いものでした。

 

「いままでの私の人生は、親の敷いたレールに従ってきた。これからは自分のやりたいようにする」

 

(おとなしかった妻はいったいなにをしたいのか……)Aさんは考えあぐねても、まったく想像がつきませんでした。

 

「推し色」に染まってロックバンドへ

妻は「卒婚」し、バンドを組んで楽しみたいというのです。もともと長く習っていたピアノの経験を活かしてキーボードを購入し、ひそかに練習をしていたようです。SNSで知り合った友人のロックバンドのグループに入るとのこと。

 

そして、衝撃的なピンクの髪については、こう笑顔で答えました。

 

「私、ずっと推しているバンドがいるんだけど、その推しのメンバーカラーがピンクなの。一度でいいから、推しと同じ色にしてみたかったのよ」

 

大人しかった妻が豹変し、まさかのロックバンドに「推し活」。夫は言葉を失いました。

 

妻は、いままで大企業で働いた給与で資産形成をしており、自身の退職金とあわせて5,000万円もの資産があります。今後も投資をしながら、人生を楽しみたいと卒婚を希望しているのです。

 

自由なセカンドライフで失う「お金」

しかし、ファイナンシャルプランナーの視点で試算すると、彼女の決断は経済的にみれば「莫大な損失」であることも事実です。もし彼女がこのまま定年までの約10年間、大企業に勤め続けた場合、現在の年収700万円ベースで考えても給与総額は7,000万円以上。さらに定年時の退職金などを加味すると、将来得られるはずだった金額は1億円以上にも上ります。

 

彼女は、その「1億円」という確実な経済的利益を捨ててでも、自分のやりたいことをやる「ノンストレスの人生」を選んだのです。妻にとって残りの人生の時間は、1億円を積まれても譲れないほど「プライスレス(お金で買えない価値)」なものだったのでしょう。