(※写真はイメージです/PIXTA)
「70歳現役」がスタンダードになりつつある日本の現状と、定年後のリスク
佐藤さんのように、「退職金=ゴール」という考えは今や昔の話になりつつあります。
総務省『労働力調査(基本集計)』によると、60歳~64歳の就業率は74.3%、65歳~69歳でも53.6%に達しています。つまり、60歳で完全にリタイアする人は少数派であり、多くの人が何らかの形で仕事を続けているのが実情です。
これには、経済的な理由だけでなく、社会参加や健康維持、生きがいといった側面も大きく影響しています。完全に社会との接点を絶ってしまうと、認知機能の低下や生活習慣病のリスクが高まるだけでなく、佐藤さんのように「家庭内での居場所」を失うケースも散見されます。
また、総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯における実収入から消費支出を引いた不足分は、毎月約3万4,000円となっています。これは平均値であり、ゆとりある生活(旅行や趣味、交際費など)を求めれば、赤字幅はさらに拡大します。
2,100万円の退職金は決して少額ではありませんが、インフレによる資産価値の目減りや、想定以上に長生きする「長生きリスク」、さらには医療・介護費用の増加を考慮すれば、取り崩すだけの生活は精神的にも大きな不安を伴います。
妻の洋子さんが放った「家にいられるのは迷惑」という言葉は、きつい表現に聞こえますが、夫の精神衛生と家計の両方を考えた際、極めて合理的な発言だったといえるでしょう。定年後は「働かなくていい期間」ではなく、「自分のペースで社会と関わり続ける期間」と考えると、さまざまな選択肢が見えてきそうです。
[参考資料]
総務省『労働力調査(基本集計)』
総務省『家計調査 家計収支編 2024年平均』