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「体力には自信がある」元部長の誤算……憧れのリゾートバイトが監獄に変わるまで
「まさか自分が、たった3日で職場から逃げ出すなんて想像もしていませんでしたよ。定年後の『第二の青春』なんて、甘い幻想でした」
都内在住の佐藤健二さん(60歳・仮名)。30代で転職した大手メーカーで定年まで勤め上げ、退職金は約1,500万円。新卒入社で勤め上げた同僚と比べると少ない額でしたが、貯蓄と合わせれば老後の資金に不安はなく、悠々自適な生活を送れるはずでした。
そんな佐藤さんが興味を惹かれたのが「リゾートバイト」でした。
「定年後のリゾートバイトが流行っているというニュースをみて、興味を持ちました。元々、定年後も働き続けるつもりでしたが、同じ会社にいるのはどこか面白くないと思っていました。かといって、転職という気力もない。そんなときにニュースをみて『これだ!』と思ったんですよね」
美しい景色のなかで働き、オフの日は温泉三昧。住まいは寮への住み込みか、会社が用意した部屋ということが多く、気軽に地方移住ができるようなもの……。都会でのオフィスワークに疲れを覚えていた佐藤さんにとって、魅力的すぎる話でした。
佐藤さんが選んだのは、リゾート地にある老舗ホテルでの「業務全般」という仕事。時給は1,200円。求人サイトには「未経験者歓迎」「シニア活躍中」の文字が躍り、寮費・食費無料という好条件でした。
しかし、現地に到着した初日から、佐藤さんの期待は裏切られます。
「まず驚いたのが住環境です。『個室寮完備』とあったのに、案内されたのは築40年はあろうかというカビ臭い別館の和室。しかも繁忙期だからと、20代のフリーター男性との相部屋を言い渡されました。彼は夜中までスマホでゲームをしていて、神経質な私は一睡もできませんでした」
翌日から始まった業務は、さらに過酷なものでした。「業務全般」という言葉の実態は、人手が足りない部署への穴埋めでした。
「朝6時から布団上げ、その後は朝食会場での配膳と片付け。特に辛かったのが洗い場です。中腰の姿勢で、数百人分の食器を延々と洗い続ける。休憩は昼の30分だけ。腰が悲鳴を上げましたが、現場のリーダーである20代の社員からは『佐藤さん、手が止まってますよ!』と怒鳴られる始末でした」
佐藤さんは“社会人の先輩”としてのプライドもあり、初日はなんとか耐え抜きました。しかし、2日目の夜、激しい腰痛で立ち上がることすらままならなくなります。
「もう無理だと思いました。翌朝、支配人に『腰を痛めたので辞めさせてほしい』と伝えると、露骨に嫌な顔をされ『これだから年寄りは困るんだよ』と吐き捨てられました。その言葉で何かがプツンと切れましてね。逃げるように荷物をまとめて帰ってきました」
帰宅後、佐藤さんは1週間ほど寝たきりの状態になったといいます。 「1,500万円の退職金があっても、健康を損なっては元も子もありません」と、佐藤さんは重い口調で締めくくりました。