アインシュタインは「常識とは18歳までにつくられたものだ」と定義しました。50代の上司が持つ“常識”と、デジタルネイティブ世代の部下が持つ“常識”は、もはや別物です。そのギャップに気づかず、自分の価値観で「解決策」を提示しても、部下の未来を描く「コーチング思考」は実践できません。本記事では、尾澤まりこ氏の著書『1ON1に悩む管理職必須スキル コーチング思考』(ごきげんビジネス出版)より、未来から逆算して現在地点を確認し、行動を合理的に積み重ねていく「コーチング思考」を身につける方法について解説します。
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部下の未来を描く「コーチング思考」を身につけるための3つの心構え

コーチング思考はバックキャスティング的考え方を取ります。未来から逆算して現在地点を確認し、行動を合理的に積み重ねていく方法です。これには3つの心構えが必要になります。

 

1.オープンマインドで人の話を聴く

1つめは、「オープンマインドで人の話を聴く」ことです。オープンマインドとは、どのような人が目の前に座っても、どのような話の内容や話題でも、ニュートラルで話を聴けることを指します。

 

当然ながら未来は誰の目にも見えていないものです。まだ物事は起こっていないので形はありません。目の前の人の目標や課題は、ほとんどの場合、まだ形になっていないものです。ある程度の勝算は事前に検討可能だとしても、本当にできるかどうかはやってみないとわからない状態です。そのようなときの私たちの判断基準は、通常の脳の働きの1つとして、いままで経験した自分の常識や自分の価値観に沿って瞬時にできるかできないか判断を下します。それはある意味、生き残るための脳の癖といっても過言ではありません。

 

「この人にそんなことができるはずない」

「何をいっているのかしら?」

 

私たちは「脳の癖」に気がつかなければ、目の前の人が話している言葉をそのまま受け取れず、自分の思い込みや経験値で判断することがほとんどなのです。自分の判断や思い込みによる話の聞き方はオープンマインド、つまり話を聞いている側が意識して、「心を開き、よいのか悪いかの判断や感覚を一旦もたず、ニュートラルに聴く」という話の聞き方とはまさに真逆の考え方に陥ります。

 

なぜ私たちは、いろいろな出来事を自分の物差しで判断するのでしょうか? ほとんどの場合、「アンコンシャスバイアス」(無意識の思い込み)と呼ばれるものが作用していると私は考えています。少しだけアンコンシャスバイアスの説明をすると、これは誰でももっている無意識の思い込みのことをいいます。

 

管理職研修などで、「今度、転勤してきた鈴木さん」といわれ、男性を思い浮かべた人はいますか?と聞くと、ほとんどの人が手をあげます。「介護している山田さん」といわれ、女性を思い浮かべた人はいますか?と聞くと、同じように手があがる確率が高い傾向にあります。一見その人にとって「常識」といわれるもので、アンコンシャスバイアスはできあがっています。

 

たとえば次のように、「〇〇するのがルールだ」という言葉にアンコンシャスバイアスが隠れていることが多いようです。

 

「〇〇するのは当然だ」

「こういう場合は、〇〇すべき」

「絶対、〇〇に違いない」

 

つまり、自分が「常識」だと定義しているものに私たちの判断は偏りがちなのです。では、私たちの常識はいつごろできあがったものでしょうか? アインシュタインは常識について次のように定義しています。

 

「私たちの常識は18歳までにつくられる」

 

考えてみると、いま20代の人の18歳までの環境や育ってきた背景と、いま50代の人の18歳までの環境や背景は、「デジタルネイティブ(生まれたときからインターネットが浸透していた世代)」かどうかも含め、時代背景にだいぶ差がありますよね。そのような観点から見ても当然、世代間格差は生まれてきます。そのため今後ますます、いままでとは違うコミュニケーションである「コーチング思考」を取り入れた対話が必須になっていくのです。

 

アンコンシャスバイアスは脳の情報処理の特性ともいわれています。私たちの脳は、大量の情報処理を毎日行っているため、判断のいらない事柄にはなるべくエネルギーをかけず情報処理をし、それまでの経験則を使います。また、判断が必要なものに対してのみエネルギーを投入して用心深く熱考し判断しているといわれているのです。

 

脳の特性だから当然アンコンシャスバイアスは誰でももっているもので、自分にもあるのだと気がつくことからすべてがはじまります。コーチング思考を身につける心構えの1つめは、判断をせず、誰もがもっているであろう
アンコンシャスバイアスを意識しつつ、「オープンマインドで人の話を聴く」ことです。