親が元気なうちに、実家を将来どうするか。 高齢化が進む日本で、誰もが直面しうる「実家じまい」の問題です。 しかし、デリケートな話題なだけに、親子間で具体的な話し合いを先送りにしている家庭は少なくありません。 いざという時、親の家をどうするのか。 調査データから、多くの家族が抱えるコミュニケーションの課題と、その重要性を考えます。
なぜこんな家、建てたんだ…環境抜群の郊外に「7,000万円」の広すぎる家。義両親とまさかの同居に、42歳夫の疲弊、深まる妻への疑念 (※写真はイメージです/PIXTA)

7,000万円の「広すぎる家」…住宅ローンと義両親の影

東京都心から電車で1時間半の郊外に、5LDKの新築戸建てを建てた田中健一さん(42歳・仮名)。 頭金のほか、7,000万円を借り入れたこだわりのマイホームです。 健一さんの年収と、パートで働く妻の由美さん(40歳・仮名)の収入を合わせ、返済期間35年の住宅ローンを組みました。

 

「正直、私たち夫婦と子ども2人(小学生と中学生)の4人家族には、広すぎる家だと思っていました。 私の通勤の利便性を考えたら、もっと都心に近くて、4LDKのマンションか、もう少しコンパクトな戸建てで十分だと考えていたのです」

 

しかし、由美さんは、「環境のいいところがいい」、「戸建てで広い庭が欲しい」、「子ども部屋とは別に、客間が欲しい」といった希望は強く、最終的に健一さんが折れる形で現在の土地と建物を契約しました。

 

特に由美さんがこだわったのは、1階にあるバリアフリー仕様の和室でした。

 

「妻は『将来、親の介護が必要になったときのために』と言っていました。 もちろん、私も自分の両親や義両親の将来は心配です。だから、その備え自体に反対はありませんでした。 ただ、その将来が、新築してたった1年でやってくるとは思ってもみませんでした」

 

新居での生活が1年ほど経過したある日、由美さんから「実家の父と母、こっちで一緒に住みたいって。いいわよね」と、同居の話が、しかもほぼ確定のレベルで持ち上がりました。

 

「まさに寝耳に水でした。 義父はまだ元気ですが、義母が少し体調を崩しがちで、妻が心配していたのは知っていましたが、それが『今すぐ同居』となるとは……」

 

健一さんにとっては、「将来の介護のため」と考えていた1階の和室が、即座に義両親の居住スペースとなりました。そして同居開始とともに、日常から安らぎが消えたといいます。

 

「平日の夜、仕事から疲れて帰ってきても、リビングには常に義両親がいます。 義両親は悪い人たちではありませんが、やはり気を使います。 自分の家なのに、心からくつろげる場所がなくなってしまいました」

 

さらに重くのしかかるのが、経済的な負担です。 月18万円のローン負担。 手取り月40万円ほどと、同年代のサラリーマンよりも多くの給与はもらっているものの、年々増えていくばかりの教育費の負担もあり、生活は苦しいといいます。

 

「義両親から生活費として月5万円を入れてもらっていますが、それで生活が楽になるということはない。 妻は『お父さんたちもいるから家事も助かるし、金銭的にも楽になる』と言いますが、そんなことはない。 実家をしめて引っ越してきたのだから、もう少しお金を入れてほしい……というのが本音です」

 

健一さんは、この広すぎる家が、最初から義両親を呼び寄せるために計画されたものではないか、という疑念さえもっています。

 

「妻は『たまたまタイミングが重なっただけ』と言いますが、なぜあんなに広い家と、1階の立派な和室にこだわったのか……まあ、今さらどうでもいいのですが」