(※写真はイメージです/PIXTA)
20年続けてきた仕送り…「突然の拒否」の理由
「先月、母から電話がありまして。『毎月の仕送り、もういいから。今までありがとうね』と」
都内の企業に勤める佐々木浩一さん(52歳・仮名)。 浩一さんは、地方で一人暮らしをする母・ハルさん(78歳・仮名)に、月5万円の仕送りを20年以上続けてきました。 15年前に父が他界してからは、ハルさんの主な収入は月7万円ほどの年金のみ。 決して裕福とはいえない母の生活を思い、浩一さんなりに続けてきた支援でした。
「仕送りを断られたのは初めてのことでした。『何かあったのか』と尋ねても、『何でもないよ。元気だから』と繰り返すばかりで」
いつもなら「ありがとう、助かるよ」と受け取っていた母の、突然の申し出。 浩一さんは、言いようのない胸騒ぎを覚え、急遽、翌週の週末に新幹線に飛び乗り、実家へと向かいました。 お正月以来、半年以上ぶりの帰省でした。
「実家に着いて、玄関を開けた瞬間、空気が違うことに気づきました。いつもは靴や傘が雑然と置かれている玄関が、スッキリと片付いていたんです」
違和感を覚えながら居間へ向かうと、浩一さんはさらに驚くことになります。 雑誌や新聞が山積みになっていたテーブルの上には何もなく、棚にぎっしり詰まっていたはずの食器や置物も、その多くが姿を消していました。 まるで、引っ越す前の部屋のように、家全体が「がらん」としていたのです。奥の部屋から、物音に気づいたハルさんが顔を出しました。
「浩一! どうしたんだい、急に」
久しぶりに会う母は、浩一さんの記憶にある姿よりも少し痩せたように見えましたが、その表情はいつもと同じように穏やかなものでした。
「ああ、片付けたのよ、いろいろと」
ただ、それだけではないはず。浩一さんは何とか母の真意を聞きだそうとします。 根負けしたハルさんは、仕送りを断ったこと、きれいに片付けをしたことの理由を、淡々と、しかしハッキリとした口調で告げました。
「実はね、来月から病院に入ることになってね。少し長くなりそうだから、身の回りの整理をしてたの」
自分の「最期」を見据え、息子に迷惑をかけまいと、静かに「終活」を進めていた――はっきりと言わないまでも、最悪の事態が想定されることが、ハルさんの様子からはっきりとわかったといいます。