葬儀は、本来、故人を静かに見送り、その生涯を偲ぶ厳粛な儀式。しかし、参列者や親族が感情的になり、その場が思わぬ修羅場と化してしまうケースも珍しくありません。生前の確執、相続問題、あるいは介護の負担を巡る認識のズレなどが引き金となることも。故人が亡くなったことで抑えられていた不満や誤解が一気に表面化し、故人を悼むはずの場で激しい口論や非難の応酬が始まってしまうのです。
 やっと終わった…〈享年75歳夫〉の葬儀で微笑を浮かべる〈年下妻〉。参列者の前で一転、修羅場と化したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「介護の負担」が見えにくい家族の落とし穴

在宅介護の現場では、介護の負担が特定の家族、特に配偶者に集中しがち。厚生労働省『2022(令和4)年 国民生活基礎調査』によると、主な介護者が要介護者等と「同居」している割合は45.9%。さらに、そのうち、介護する側とされる側の両方が65歳以上である、いわゆる「老老介護」の割合は63.5%と高水準を記録し、介護者の高齢化も深刻です。

 

良子さんのように、介護を一身に背負う配偶者は、身体的な疲労だけでなく、社会からの孤立や精神的なストレスも抱え込みがち。問題なのは、健介さんのように、介護を受けている本人が、介護者(良子さん)のいない場所で、親族や友人に不満や愚痴をこぼすケースです。介護の日常を知らない周囲の人間は、その言葉を鵜呑みにしやすく、介護者に対して「故人はあんなに苦しんでいたのに」といった誤解や偏見を抱いてしまうことも珍しくないでしょう。その蓄積された誤解が、故人が亡くなった後の葬儀や相続の場で一気に噴出し、今回のような修羅場に発展するのは、葬儀においてよくあることです。

 

介護は家庭内だけで解決しようとせず、早い段階から介護サービスを利用したり、ケアマネジャーに相談したりすることも重要です。また、親族間でも、介護の状況や金銭的な負担について、生前から情報を共有し、一人に負担が集中しすぎないよう理解を深めておくことが、こうしたすれ違いを防ぐ鍵となります。

 

[参考資料]

厚生労働省『2022(令和4)年 国民生活基礎調査』