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60代前半の就業率7割超えと「老後の生活費」のリアル
北村さんのように、定年退職後に再び働き始める人は決して珍しくありません。総務省『労働力調査』によると、60~64歳の就業率は男女計で74.3%、男性に限ると84.4%です。55~59歳の就業率が、男女計で75.2%、男性に限ると88.5%。多くが60歳定年である現状を鑑みると、定年で仕事を辞める人が、かなりの少数派であることを読み取ることができます。
この背景には、北村さんが直面したような経済的な事情が大きく関わっています。公益財団法人 生命保険文化センター『2022(令和4)年度 生活保障に関する調査』では、夫婦二人の老後の最低日常生活費として月額平均23.2万円、さらに「ゆとりある老後生活」を送るためには月額平均37.9万円が必要とされています。
そのようななか、金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』によると、老後の生活について、「心配」と回答したのは78.4%。「非常に心配」に限っても38.9%にのぼります。さらに心配の理由のトップは「十分な金融資産がないから」(68.1%)。さらに37.1%と、約4割の人が「生活の見通しが立たないほど物価が上昇することがあり得ると考えられるから」をあげています。収入が限られるなか、インフレは老後に深刻な影響を与えます。実際にインフレで現役世代でも生活苦を感じるなか、インフレを老後の心配事にあげる人は、今後ますます増えていくと考えられます。
そんな心配に打ち勝つには、十分な資産を築くか、または働くか、大きく2択になったくるでしょう。60歳定年は、もはや「上がり」のゴールではありません。経済的な安定と、健康維持、社会的なつながりを確保するためにも、セカンドキャリアを見据えた「シニア就労」は、多くの人にとって現実的かつ重要な選択肢といえます。
北村さんは現在、週3日のパートタイムとして、前職の経験が活かせる中小企業の顧問のような形で働いています。「収入は現役時代に比べればずいぶんと少ないですが、夫婦2人が生きていくだけなら十分。何より『必要とされている』という張り合いがありますし、貯蓄の減少幅もずいぶんと緩やかになった。漠然とした不安に襲われることもほとんどなくなりました」と、その表情は明るいものでした。
[参考資料]
総務省『労働力調査』
公益財団法人 生命保険文化センター『2022(令和4)年度 生活保障に関する調査』
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』