(※写真はイメージです/PIXTA)
悠々自適のはずが…「まだ働ける」という現実
60歳で定年を迎えた北村明夫さん(65歳・仮名)。都内の中堅メーカーで約38年間、営業畑一筋で勤め上げ、大きな病気もせず無事に定年を迎えられたことに、北村さん自身も家族も安堵していたといいます。
「退職金は、確定拠出年金なども含めて約2,200万円。子どもたちは独立し、妻と2人暮らし。住宅ローンも完済し、65歳からの年金受給額もある程度は見込めていました。定年で引退しても老後は安泰だと確信して、仕事を辞めることにしたんです」
仕事を辞めてからは、現役時代にはなかなか時間が取れなかった趣味のゴルフの回数を、月1から週1に増やしました。妻と「仕事を辞めたらやってみたいね」と話していた四国八十八箇所巡りにも挑戦。毎日が楽しいことの連続でした。しかし、家庭のなかには何ともいえない空気が流れることも多くなったといいます。
「毎日が日曜日のような生活は、最初のうちは楽しかったんです。でも、段々と、物足りなさを感じるようになった。やりたいと思っていたことをある程度やってしまうと、やることを考えるのが苦痛になってきた。一日中家にいることが多くなると、妻はペースが乱されるのか、イライラすることが多くなって……」
そんな矢先に物価高騰が顕著になり、ニュースのたびに報じられるようになります。少しずつ、少しずつではあるものの、昨日までの暮らしが、昨日までの価格でできなくなっていくのを感じるようになりました。
「この調子で物価があがっていったら、10年後、15年後にどうなるのか。人生100年時代と言われるなか、まだ60代前半……急に漠然とした不安に襲われました。生きている間に、貯蓄はすべて尽きてしまうのではないかと」
定年をピークに、貯蓄は減る一方、ということも、不安に拍車をかけました。60歳定年で仕事を辞めた北村さん、結局、自由を謳歌したのは2年だけで、再び仕事を始めることに。
「経済的な不安が一番の理由であることは間違いありません。しかし、それだけではなかった。仕事を辞めてみて、『まだ自分も働ける』『社会の役に立ちたい』という気持ちが強くなったんです」