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増加する「相続放棄」…知らなかったでは済されない負債
陽子さんは離婚という選択によって、図らずも元夫の多額の負債から逃れられた形となりました。もし離婚が成立していなければ、陽子さんは法定相続人として、隆さんのプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(負債)も引き継ぐことになっていた可能性が高いといえるでしょう。
司法統計によれば、家庭裁判所における「相続放棄」の申述受理件数は、2023年は28万2,785件と過去最多を更新しました。前年比約9%増で、年々増加傾向にあります。これは、故人に多額の借金があったケースだけでなく、疎遠だった親族の相続手続きに関わりたくない、あるいは資産状況が不明でリスクを避けたいと考える人が増えていることも背景にあると考えられます。
今回の隆さんのように、家族が把握していない負債が生前に膨らんでいるケースは少なくありません。残された家族は、相続の開始を知ったとき(通常は死亡を知ったとき)から原則3ヵ月以内に、相続を承認するか、あるいは相続放棄の手続きを家庭裁判所で行うかを決めなければなりません。「知らなかった」では済されないのが、相続の現実です。
だからこそ、元気なうちに自身の資産(預貯金や不動産といったプラスの財産)と負債(ローンや借入金などマイナスの財産)を明確にし、整理しておく「生前整理」や「終活」の重要性が高まっています。
「子どもたちは相続放棄をしたので、お義父さん、お義母さんがどうするか、ですね。もう赤の他人なので、関係ないですが」
一方で、隆さんは生命保険の受取人を、離婚後も陽子さんのまま変えずにいたとか。その結果、1,500万円の保険金を受け取ったといいます。
「元夫の罪滅ぼしでしょうか。それでも絶対許しませんけど」と陽子さんは笑います。
[参考資料]
裁判所『司法統計』
法テラス『相続放棄に関するよくある相談』