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「熟年離婚」が老後設計に与える深刻な影響
内田さんのようなケースは、決して珍しいことではありません。厚生労働省『令和4年(2022)人口動態統計』によると、同居期間が20年以上の夫婦の離婚件数、いわゆる「熟年離婚」は3万8,605組にのぼり、離婚総数(17万9,096組)の約21.5%を占めています。
昭和60年(1985年)の同割合が約10.4%だったことと鑑みると、その割合は約2倍に増加しており、熟年離婚が一般的な選択肢となりつつあることがうかがえます。
老後の生活設計において、熟年離婚が深刻な影響を及ぼす最大の要因が、内田さんのケースにもあった「年金分割」です。
これは、離婚した場合に、婚姻期間中の厚生年金(または共済年金)の保険料納付記録を夫婦間で分割できる制度です。分割の対象となるのは、あくまで婚姻期間中の「厚生年金部分」であり、国民年金(基礎年金)は含まれません。
内田さんのように、夫側が会社員や公務員として厚生年金に長期間加入し、妻側が専業主婦や扶養内パートであった期間が長い「片働き」の世帯ほど、分割による影響は大きくなります。分割割合は最大2分の1(合意分割の場合)となり、夫側が受け取る厚生年金は大幅に減少することになるのです。
さらに、年金だけでなく、婚姻期間中に夫婦で協力して築いた共有財産(預貯金、不動産、有価証券、退職金など)も、原則として財産分与の対象となります。
長年勤め上げた退職金と、満額に近い年金受給を前提に老後のライフプランを立てていた場合、熟年離婚による財産分与と年金分割は、その計画を根本から揺るがす事態となります。「悠々自適な老後」から一転、内田さんのように「節約」を強いられる生活になる可能性は、誰にでもあるのです。
[参考資料]
厚生労働省『令和4年(2022)人口動態統計』
法テラス『財産分与に関するよくある相談』