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管理費は年数十万…子世代にのしかかる「負の遺産」の重圧
「もう一つの問題は、管理なのよ」母親が口を開きます。
「春になれば、伸びた雑草の草刈りや、隣の家との境の枝打ち。夏はそれに加えて、台風で倒れた木やゴミの後始末。以前はお父さんが一人でやってたけど、最近は足腰が弱くなって、長時間はできないの。私も少し手伝うのがやっと。この広さだと、シルバー人材センターに頼むと、年間、数十万円はかかるし……」
隣の市から帰省していた妹の菜摘(仮名/30歳)も、本音を漏らしました。
「お兄ちゃん、お父さん、お母さん。私も週末とか、できる限り手伝いに来てるけど、広すぎて手に負えないっていうのが正直なところ。このままだと、管理費と労力だけがかかる『塩漬けの土地』を、将来私たちが相続することになるわ。私たちに子どもが生まれたときのことを考えると……。子どもの代にまで、この負担を残すわけにはいかないよ」
菜摘さんの言葉は、翔太さんの心境そのものでした。現在の法律では、所有者不明土地の問題を防ぐために、相続登記の申請が義務化されています。相続を放棄しない限り、この土地の責任は、確実に子世代に引き継がれるのです。
「先祖から受け継いだ土地を、守っていくのが我々の役目だと思っていたんだがな……」
父親の言葉には、先祖への義理と自分たちの代での限界、その狭間での葛藤が滲んでいました。
所有者不明土地の現状、そして出口戦略
「所有者がわからない」「連絡が取れない」といった「所有者不明土地」は日本各地で増加し、深刻な社会問題となっています。国土交通省の地籍調査によると、2016年度の所有者不明土地は、全体の20%前後であることがわかります(探索の結果、最終的に所有者の所在が確認できない土地は0.41%)。2022年度の割合は、24%。
相続が多く発生する時代を迎える日本で、このままなにも対策を講じなければ、2040年には北海道本島の面積に迫るほどにまで増えると予測されているのです。所有者不明土地を放置すると、民間の土地取引や公共事業への着手などに支障をきたしたり、近隣への悪影響をおよぼしたりといった問題が多発する可能性があります。まさに待ったなしの課題といえるでしょう。
こうした事態を前に、翔太さんは解決策として3つの選択肢を提案しました。
・現状維持
・売却または寄付
・相続土地国家帰属制度の利用
現状維持には、家族の話し合いのとおり、子世代に負担が引き継がれるリスクがあります。売却・寄付は、まずは専門業者に相談し、調査が必要となるでしょう。取引の相手は限定的となり、断られる場合もあるかもしれません。
「相続都市国庫帰属制度」は、土地を相続した人が、不要な土地を手放すことのできる制度として、新たに設けられたものです。土地の所有権を取得した相続人であれば、基本的には誰でも申請が可能です。必要な費用は次のとおり。
・1筆の土地あたりの審査手数料は1万4,000円。
・申請が承認されれば、土地の性質に応じた、10年分の土地管理費用相当額を納付する。
・同じ種目の土地が隣接している場合は、2筆以上でも負担金の合算を申し出ることができる。
・面積に応じた負担金が必要な場合もある。
詳しくお知りになりたい方は、法務省のウェブサイトでご確認ください。

