代々受け継いだ広大な山間部の土地。土地としての評価は低く利用方法もない場合、維持管理が所有者の大きな負担になります。放置してしまうと、さまざまな問題が発生する可能性も。本記事では阿部翔太さん(仮名)の事例とともに、「負」動産の所有と相続について、FP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、内容の一部を変更しています。
数十万円の固定資産税・芝刈り地獄…東京で働く年収800万円の35歳長男、70代両親のデカすぎる実家「九州の片田舎・東京ドーム半個分」に呆然【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

決断、未来への責任

「お父さん、お母さん。先祖への思いは十分承知しているよ。でも、土地を守ることで、お父さんたちの健康や、私たち子世代の未来を犠牲にするわけにはいかないよね」

 

「現状維持は、もう限界。私たちの体力が持たないよ」と、翔太さんの母親が初めて強い口調でいいました。「そうだな……」翔太さんの父親は、地図の上に広げられた広大な土地を、複雑な面持ちでみつめていました。

 

沈黙を破ったのは父親のひと言でした。

 

「翔太、菜摘。わしらの代で、この土地の負の側面は清算しよう。将来の負債を子どもたちに残すのは、親として本意ではない」

 

父親は、ついに決断したのです。

 

「まずは、専門業者に売却の可能性を探ってもらおう。ダメなら、国庫帰属制度についても、行政書士に相談して、条件に合うか調査してもらってくれ」

 

「わかりました」翔太と菜摘は、安堵の表情をみせました。

 

これは、広大な土地を「手放すための終活」の始まりです。売却益は期待できません。それよりも、長年家族を縛り続けてきた「広すぎる土地の管理責任」という重圧から解放されることこそが、なによりも大きな利益となるでしょう。

 

家族会議は、「先祖への義理」よりも、「家族の健康と未来」を優先するという、現代的な決断で締めくくられました。利用価値を見出せない「負」動産の終活は、こうして一歩を踏み出したのです。この決断が、阿部家の未来を確実に軽くするはずです。

 

〈参考〉

法務局
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00590.html

 

国土交通省 P2
https://www.mlit.go.jp/common/001201306.pdf

 

政府広報オンライン 1所有者不明土地とは?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202203/2.html

 

法務省
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html

 

 

藤原 洋子

FP dream

代表FP