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夢のマイホームを手に入れたが…少しずつ家計を圧迫
都内のIT企業に勤める田中さん(47歳・仮名)は、8年前に購入した都内のマンションを売却することを決意しました。月収58万円。傍から見れば安定した生活を送っているように見えますが、その内情は火の車でした。購入当時39歳だった田中さんにとって、3LDKのそのマンションは、まさに「一生の買い物」であり、家族の夢そのものでした。
「35年のローンを組んだ時、正直、不安がなかったわけではありません。でも、当時の収入と会社の将来性を考えれば、十分に払っていけると判断しました。老後は住み替えるかもしれないが、少なくとも、小学生になるひとり息子が独立するまでは、ここで暮らすものだと思っていました」
しかし、その計画は数年前から少しずつ狂い始めました。
まず世界的な物価高の波が、田中さんの家計にも容赦なく押し寄せました。食費や光熱費が上がり続ける一方で、期待していた昇給はほとんどありません。月収58万円、手取りにすると44万円ほど。給与は微増というなか、贅沢しているわけでもないのに、支出額が増えていく……少しずつ家計は圧迫していきました。
さらに、追い打ちをかけたのが、マンションの管理費と修繕積立金の値上げ。
「昨今の物価高を背景に、管理費と修繕積立金が、少しずつではあるものの、じわりじわりと値上げされ……。修繕積立金は、入居時は月2万2,000円だったのが、現在は月4万円の負担。管理費と合わせると、月6万円の負担です。今後も物価高が続けば、さらに増えていくでしょう」
現在、田中さんのローンの支払いは月13万円ほどで、住居費に月20万円弱かけている計算になります。このまま物価高が進めば、近いうちに手取りの半分を占めるようになるかもしれません。一方で、就学前だった息子は、受験を経て中学生。中高一貫校で、数年後には大学受験を控えています。塾の費用や将来の学費を考えると、これ以上の固定費の増加は家計の破綻を意味しました。
田中さんは管理組合の総会にも出席し、値上げの根拠について説明を求めましたが、提示されたのは、高騰する建築資材費や人件費のデータ、そして、そもそも新築分譲時に設定された修繕計画自体が楽観的すぎたという事実でした。値上げは避けられない、という結論は変わりません。
「妻とは何度も話し合いました。そうしたなか、幸いにも息子は中高一貫校に通っていたため、現在の居住地にこだわる必要はありませんでした。不動産価格が上がっている今、売却して住み替えるのもひとつの選択肢ではないかと考えたのです」
田中さん夫婦はマンションを売却し、新たに都心から電車で1時間ほどの郊外にマンションを借りることにしたといいます。
「以前に住んでいたマンションよりも広いし、環境もいい。購入も検討しましたが、リタイア後のことを考えると、さらなる住み替えもあるかもしれない。状況に応じて柔軟に対応できるよう、今は賃貸がベストと判断しました」