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なんで俺だけ…退職金2,000万円も「想定外の三重苦」で風前の灯火
「退職金と貯蓄をあわせて2,000万円。それに月20万円の年金があれば、夫婦二人、贅沢はできなくても穏やかに暮らしていける。そう、信じて疑いませんでした」
そう力なく語るのは、羽賀徹さん(65歳・仮名)。食品メーカーで働くこと約40年。65歳で定年退職を迎え、現在は都心から少し離れた郊外に購入した一戸建てで、妻・陽子さん(63歳・仮名)と第二の人生をスタートさせたばかりでした。しかし、その計画は思いもよらない形で崩れ始めます。
最初のつまずきは、退職からわずか半年後のこと。陽子さんが脳梗塞で倒れたのです。
「朝、起きて居間に行くと台所で倒れていました。幸い命に別状はなかったものの、右半身に麻痺が残ってしまった。3ヵ月の入院と定期的な通院が必要になりました」
高額療養費制度を利用しても、差額ベッド代や先進医療にかかる費用、家族が病院に通う交通費、自宅のリフォーム代など、思ってもいなかった支出が今も続いています。
追い打ちをかけたのが、長年住み慣れた我が家からの「悲鳴」でした。築30年を超え、あちこちにガタがきていたものの、見て見ぬふりをしてきたツケが一気に回ってきたのです。
「台風の翌日、2階の天井に大きなシミができているのを見つけたんです。業者に見てもらうと、屋根のスレートが破損しており、雨漏りをしていると。修理には足場を組む必要があり、見積もりは180万円。火災保険は風災補償をつけていましたが、経年劣化が原因と判断され、保険金はごくわずか。結局、150万円以上を貯蓄から持ち出すしかありませんでした」
妻の医療費、そして家の修繕費。計画していた老後資金は、わずか1年余りで数百万単位で消えていきました。
そして、とどめを刺す出来事が起こります。結婚し、幸せに暮らしているとばかり思っていた一人娘の美咲さん(38歳・仮名)が、ある日突然、8歳の孫を連れて「帰らせてほしい」と頭を下げてきたのです。
「聞けば、夫のDVが原因で離婚したと。事情が事情なだけに養育費の取り決めは行っていない。すぐにパートは見つけたものの、小さな子どもを抱えて生活していくのは厳しい。私たちを頼らざるを得ない状況でした。『お父さん、ごめんなさい』と泣く娘を、追い出すことなんてできませんでした」
夫婦二人で月20万円の生活から、要介護の妻と娘、孫との4人暮らしへ。食費や光熱費は大きく跳ね上がりました。
「なんで俺だけ、こんな目に遭うんだ……」
踏んだり蹴ったりの状況を、思わず恨まずにはいられませんでした。ある夜、通帳を眺めていた羽賀さん。記された2,000万円近くの残高は、半分程度に減っていたといいます。