「最近、親のもの忘れがひどくなった……」と感じていませんか。それは単なる加齢のせいではなく、認知症のサインかもしれません。家族を悩ませる不可解な言動の裏には、本人も苦しむ記憶のメカニズムが隠されています。大切な家族とどう向き合っていくべきか——そのヒントとは?
〈年金20万円〉厳格だった81歳父、闘病の末に逝去。3年ぶりに訪れた実家で見つけたポチ袋に、3人の子どもたちが「思わず笑顔」の理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

「不可解な行動」の裏にあった、大切な記憶

健一さんが亡くなり、きょうだい全員が顔を合わせたのは、実家の遺品整理のためでした。思い出話もそこそこに作業を始めると、タンスの奥、仏壇の引き出し、本の間から……あちらこちらから現金入りの封筒が見つかりました。

 

その封筒は単なる封筒ではなく、なぜかお年玉用のポチ袋。そのとき、「同じようなこと、小さいころにやったよね」と二葉さんが何かを思い出したように言ったといいます。

 

厳格な父が見せた年に一度の遊び心。お年玉を家中に隠し、「見つけた分、お前らのものだ」と突如始まる宝探し。夢中になって探す子どもたちの姿を、目を細めて見ていた健一さんの顔。懐かしい光景がありありと蘇ってきました。

 

ここで重要となるのが、認知症における記憶の特性です。一般的に、認知症が進行すると最近の出来事(短期記憶)は失われやすい一方、若い頃の思い出や強い感情を伴う体験(エピソード記憶)は、比較的長く保たれる傾向があります。

 

物盗られ妄想で家族を困らせていた健一さんでしたが、その心の奥では、子どもを喜ばせたいと必死だったあの日に戻っていたのかもしれません。次々と見つかるポチ袋は、父からの最後の「お年玉」のように思えて、一郎さんたち3人は思わず笑顔がこぼれたといいます。

 

[参考資料]

政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本』