(※写真はイメージです/PIXTA)
厳格だった父の変化……「お前が盗ったんだろう!」
「父は昔から、冗談ひとつ言わないような厳格な人でした。私たち子どもにとっては、少し怖い存在だったかもしれません」
そう語るのは、先日、父親の健一さん(享年81歳・仮名)を亡くしたばかりの根津一郎さん(55歳・仮名)です。健一さんの晩年は、認知症との闘いの日々でした。
異変に気づいたのは、健一さんが70代後半になったころ。もともと几帳面だった性格が一変し、同じことを何度も聞いたり、物の置き場所を忘れたりすることが増えました。そして一郎さん、弟の二郎さん(53歳・仮名)、妹の二葉さん(52歳・仮名)を最も悩ませたのが、「物盗られ妄想」だったといいます。
「毎月20万円の年金が振り込まれると、父は決まって全額をおろしてくる。しかしどこにしまったか忘れてしまうんです。隠した場所がわからなくなると、『金がない! お前が盗ったんだろう!』と、私や妹、弟を代わる代わる怒鳴りつける。最初は懸命に否定していましたが、何を言っても無駄でした。正直、みんな疲れ果てていました」
家族はどう向き合えばよいのか
健一さんのようなケースは特別なことではありません。65歳以上の高齢者を対象にした2022年度の調査では、認知症の人の割合は推計約12%、その前段階とされる軽度認知障害の人は約16%。両方を合わせると3人に1人が認知機能にかかわる症状を抱えていることになります。
一郎さんたちを悩ませた「物を盗られた」という訴えは、認知症の「行動・心理症状(BPSD)」のひとつである「物盗られ妄想」にあたります。これは、物を置いた場所を忘れてしまう記憶障害が根本にあり、その事実を自分で認められないために、「誰かに盗られた」という考えに結びついてしまうことで起こります。
このように家族に「もの忘れがひどい」などの変化が見られたら、認知症の可能性があります。一人で悩まず、かかりつけ医や地域包括支援センター等の専門機関に相談が第一歩。大切なのは、本人の意思を尊重し、住み慣れた環境で暮らし続けられるよう、家族が認知症への理解を深めることです。各市町村が示す「認知症ケアパス」や、交流の場である認知症カフェなどを活用し、本人を支えていくことが求められます。