(※写真はイメージです/PIXTA)
東京に吸い込まれる若者たち
この構造がなぜ日本の未来にとって致命的なのでしょうか。その答えは、都道府県別の合計特殊出生率(一人の女性が生涯に産む子どもの数の推計値)をみれば明らかです。
厚生労働省の「人口動態統計」によると、2023年の合計特殊出生率は、全国で最も高い沖縄県が1.60、宮崎県や長崎県が1.49であるのに対し、東京都は全国最低の0.99。大阪府(1.20)、神奈川県(1.25)、埼玉県(1.25)、千葉県(1.26)といった大都市圏も軒並み低い水準にあります。
つまり、出生率の高い地方が、若者を出生率の低い東京へと供給し続けている構図です。地方には子育てを支えるコミュニティや文化が残っていますが、雇用機会が限られています。若者は仕事を求めて東京圏に出ていき、結果として「子どもを産み育てにくい環境」で家庭形成が遅れ、出生率が低下する――。日本全体の出生率を押し下げているのは、この「構造的な人口移動」そのものなのです。
10年後の現実
2024年4月、増田氏が理事長を務める日本人口減少総合研究所(北日本新聞社などと共同)が発表した最新版レポートでは、「消滅可能性都市」は896から744自治体へと見直されました。
一定の改善がみられる一方で、若年女性人口の減少傾向そのものは依然深刻であり、地方の人口構造が持続困難になるリスクは解消されていません。特に東北地方や中国山地の小規模自治体では、教育・医療・交通インフラの縮小が若者流出をさらに加速させています。
「地方→東京」の構造を変えなければ、未来はない
いまや少子化は「地方の問題」ではなく、「日本の再生産システム全体が機能不全に陥っている問題」です。これを転換するには、次の3つの方向性が必要でしょう。
1.地方で“生涯設計”が可能な社会インフラの整備
教育・雇用・医療・交通・住環境を一体的に整備し、若者が「地元で人生を描ける」条件をつくること。
2.都市の子育てコスト構造の是正
東京圏では住宅費と保育環境の制約が深刻です。若者が家庭形成をためらう最大の要因を減らす政策が不可欠。
3.地方と都市の役割分担の再設計
地方が「子育てと暮らしの基盤」、都市が「産業と学びの拠点」という新たな関係を再構築し、双方向の人口循環を生み出すこと。
現状の構造が続く限り、日本全体の出生率は上向かないでしょう。増田レポートの警鐘から10年。私たちはいまも、あの「予言」のただ中にいます。この構造を転換できるかどうかが、日本の未来を決定づける岐路に立っています。
〈参考〉
日本創成会議「消滅可能性都市」報告書(2014年5月)
https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-141105_2.pdf
日本人口減少総合研究所「令和6年版・地方自治体持続可能性分析レポート」(2024年4月)
https://www.hit-north.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/04/01_report-1.pdf
厚生労働省「人口動態統計(2023年)」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/
東京都「令和5年 人口動態統計年報(確定数)」
https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2024/11/2024110803.html
総務省統計局「人口推計」