夫の定年退職は、夫婦にとって第二の人生のスタート。しかし、共に過ごす時間が増えたことで、これまで見えなかった価値観の違いや小さなすれ違いが表面化することも少なくありません。誰もが「おしどり夫婦」であり続けたいと願うもの。それにもかかわらず、長年連れ添ったからこそ生まれる溝とは、一体どのようなものなのでしょうか。
おしどり夫婦と評判だったが…〈退職金2,500万円〉60歳夫の定年退職から半年後、58歳妻が静かに〈離婚〉を切り出したワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「空の巣」と「濡れ落ち葉」…定年後に夫婦を襲う二つの危機

子どもが成長して巣立ち、親が「自分の役割が喪失した」と感じて孤独や喪失感に襲われる状態である「空の巣症候群(エンプティ・ネスト・シンドローム)」。さらに「夫の定年退職」という大きな人生の節目が重なるとき、夫婦関係も変化することがあります。

 

厚生労働省『人口動態統計』によると、同居期間20年以上の夫婦の離婚、いわゆる「熟年離婚」の件数は、全離婚件数の約2割を占め、長年高い水準で推移しています。子育てという共通の目的を失う「空の巣症候群」のタイミングと、夫の定年で「会社員の妻」でもなくなったタイミング。ここで、自分自身の人生を考え直し、離婚という選択肢が現実味を帯びてくるケースもあるでしょう。

 

ソニー生命保険株式会社『シニアの生活意識調査2024』でも、高齢夫婦の意識の差は明らかです。配偶者がいる高齢者に「老後も配偶者と一緒に暮らしたいと思うか」聞いたところ、「そう思う(計)」は85.1%。これを男女別にみると、「そう思う(計)」と回答した人の割合は、男性は92.5%に対し、女性は77.2%と、女性のほうが15.3ポイント低くなっています。夫婦観について、男女間で意識のギャップがみられる結果となりました。

 

このような意識差を乗り越えるためにも、大切なのは定年前からの夫婦間の対話。定年後の生活について、お互いが何をしたいのか、一人の時間をどう尊重するのか、家事をどう分担するのか——新たな関係性を築くための「すり合わせ」を事前に行うことこそが、定年後の危機を乗り越えるための唯一の方法といえるでしょう。

 

[参考資料]

厚生労働省『令和5年 人口動態統計月報年計(概数)の概況』

ソニー生命保険株式会社『シニアの生活意識調査2024』