(※画像はイメージです/PIXTA)

現役時代に所得が高く、さらに支出も多い場合、老後に生活水準を落とすことができず、家計が苦しくなってしまう方も少なくありません。そんな「老後破産の危機」はどのように回避すれば良いのでしょうか。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、事例を交えて解説します。

家計の支出額を変えることはできるか

 

とはいっても、老後生活に入った途端、すぐに家計支出を減らすことは困難です。筆者のところに相談に来られたAさんもその1人でした。

 

Aさんが61歳で、家計を見通し会社を辞めた理由

72歳のAさんは、4歳年下の妻と都内のマンションで暮らしています(住宅ローン完済)。

 

Aさんは都内の上場企業の営業部長まで務め、ピークの年収は1,300万円。60歳で充分な退職金を受け取り、定年退職後はその会社に再雇用され、営業部付部長として65歳まで務める予定でした。

 

60歳からの給与は今までの約半額になりましたが、60歳から65歳までは、特別支給の老齢厚生年金174万円(月額14.5万円)、75歳までは企業年金60万(月額5万円)を受給していました。そのため、毎月の収入は退職時とほぼ同額の約55万円でした。また退職金を含め貯蓄も4,000万円近くあったことから、老後の心配はまったくといっていいほどしていなかったといいます。

 

再雇用後のAさんの仕事は、主に新規顧客の開拓でした。毎月のノルマも課されることから、これまで再雇用で残った先輩たちはみな半年~1年で辞めていました。

 

「俺なら大丈夫だろう」そう考えていたAさんでしたが、思いのほか数字をあげることができません。徐々に会社に居づらくなったAさんは、結局これまでの先輩たちと同様に1年で退職してしまったそうです。

 

Aさんは会社を辞めるとき、今後の生活費は65歳までは特別支給の老齢厚生年金と企業年金を使うほか、貯蓄を取り崩すことを予定していました。

 

ねんきん定期便によると、Aさんの年金受給見込み額は65歳からは老齢厚生年金が292万円(月額24万円)、69歳からは妻の年金も含めて341万円(月額28万円)とのこと。

 

「現役時代に比べると少ないが、まあなんとかなるだろう」楽観的なAさんはなんの根拠もなくそう考えました。

 

Aさんの家計の誤算

退職後のAさんは「とにかく暇だ」と感じていました。これまで仕事一筋でがむしゃらに働いていた分、なにか動いていないと落ち着きません。

 

そのため、国内外への旅行や外食、ゴルフといったアクティビティへの支出が増えたほか、長いあいだ働いた“自分へのごほうび”として、念願の高級車に買い替えるなど、会社に勤めていた時と同様、ときにはそれ以上に支出が増えていきました。

 

すると、65歳時点で貯蓄残高は約800万円にまで減少。約4年間で3,000万円以上使った計算になります。

 

Aさんは当時のことを、「周りに『落ち着いたな』や『老けたな』と思われるのが嫌で、そのためにも生活の質を落としたくなかった」と振り返ります。

 

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本記事は、株式会社セゾンファンデックスが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。