(※写真はイメージです/PIXTA)
再婚の決め手は「手続き上の面倒」
息子たちと今後のことについて話し合うなか、「かなり面倒だな」と思ったという美代子さん。
「元夫が入院した病院と息子たちの自宅は遠くて、頻繁に来ることができない。私なら近いので、すぐに来ることができる……しかし病室にも入れないのに、来る意味なんてないじゃないですか?」
この先、同意書を求められることもあるかもしれない。病状の詳しい話を聞くこともあるかもしれない。しかし、ことあるごとに「家族じゃないといけないので……」と言われることは確実。
「ああ、家族じゃないのって本当に面倒だと思ったんです」
その後の美代子さんの行動は迅速でした。役所に書類を取りに行き、ひと通り書き終えた後、息子に「お父さんに、ここに判を押してもらって」と託したのです。
「婚姻届けです。考えるのも面倒なので、さっさと家族に戻りましょうと。10年ぶりに夫婦に戻った理由なんて、そんなもんですよ。愛情とか、そういうのじゃ、まったくないです」
美代子さんは、そう言ってカラリと笑います。
厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況』によると、2022年、離婚した夫婦のうち「同居期間が20年以上だった熟年離婚」の割合は23.5%。統計開始(1947年)以来の過去最高となりました。離婚件数全体は減少傾向ですが、熟年離婚の割合は高止まりしています。鈴木さん夫婦のように、平均寿命が延び、子どもが独立してからの夫婦二人の期間が長くなることで、性格の不一致などが顕在化し、関係をリセットしたいと考えるケースが増えていることが一因です。
一方で、離婚によって法的な婚姻関係がなくなることは、特に高齢期においてデメリットが生じる可能性があります。美代子さんが直面したように、医療現場での対応がそのひとつです。手術の同意や重要な病状説明は、法的な親族であることが前提とされるケースが少なくありません。もちろん、本人が事前に「キーパーソン」として指定していれば対応は可能ですが、突然倒れた場合などには混乱が生じがちです。
また、経済的な側面も無視できません。法律上の配偶者であれば受け取れるはずの「遺族年金」。内縁関係(事実婚)でも一定の要件を満たせば受給できる場合がありますが、元配偶者にはその権利はありません。相続においても、法定相続人にはなれないため、遺言書がなければ財産を受け取ることはできません。
「結婚も離婚も、紙切れ一枚。都合よくやればいいんじゃないかしら」
[参考資料]
厚生労働省『令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況』