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「お前は俺の稼ぎで…」定年退職した夫の“モラハラ”に限界
都内でシニア向けマンションに住む鈴木美代子さん(72歳・仮名)。年金は月12万円。10年ほど前に3歳年上の和夫さん(75歳・仮名)と離婚しました。
「夫が定年退職して1年が経ったことでしょうか。元々、結婚生活に違和感を覚えていました」
和夫さんが現役で働いていたころはほとんど家にいなかったため、違和感を抱えたままでよかったのですが、仕事を辞めて四六時中家にいるようになってからは、その違和感は顕在化しました。和夫さんは、些細なことで美代子さんをなじるようになったといいます。
「『今日の味噌汁は味が薄い』『掃除が行き届いていない』。常に命令口調で、まるで私は家政婦か何かのように扱われました。私が何か意見をしようものなら、『お前は俺の稼ぎで食わせてもらってきたんだろう』と、決まって上から蓋をされる。今思えば、あれは完全なモラルハラスメントでしたね」
現役時代から亭主関白な気質はあったものの、毎日顔を突き合わせる生活はツラいものだったといいます。子どもたちも独立し、それぞれの家庭を築いています。もう、自分が我慢する必要はないのではないか――決定打となったのは、美代子さんが長年続けていたパートについて和夫さんから「まだそんなことをやっているのか。みっともないから辞めろ」と言われたことでした。
「あれで何かが切れました。この人は、私の人生を何だと思っているんだろうと。その日のうちに、『あなたとはもう一緒にいられません』と三行半を突きつけたんです」
もちろん、和夫さんは激高しました。しかし、美代子さんの決意は固く、弁護士を立てて財産分与をきっちりと請求。退職金や預貯金の半分を受け取り、長年連れ添った家を出ました。3年前から現在のシニア向けマンションで暮らすようになったといいます。
離婚後の10年間は、美代子さんにとって自由で穏やかな時間でした。パートを続けながら、友人たちと旅行に出かけたり、新しく始めた趣味のサークル活動を楽しんだり。元夫の和夫さんとは、子どもたちを通じて時折、様子を伝え聞く程度で、直接連絡を取ることはありませんでした。
そんな穏やかな日常が揺らいだのは、2年ほど前の春のこと。息子から一本の電話が入りました。「元夫がステージ4のがん」だというのです。
「やはり驚きました。とりあえず、病院に駆けつけたんですが、まだコロナ禍の影響があるころで、面会が制限されていて。家族以外の方はご遠慮くださいと……」
美代子さんは元妻。つまり他人です。基本的に病室には入ることはできず、受付で息子たちを待っていることしかできなかったといいます。