定職に就き、十分な貯蓄もある。しかし、それは本当の「自立」といえるのでしょうか。親の年金に頼り、家事の一切を親に任せる“半人前”の大人たちが、いま、日本で増えています。本記事では社会保険労務士法人エニシアFP共同代表の三藤桂子氏が、Aさんの事例とともに経済的な自立と、生活者としての自立のギャップについて解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
いつまでも居ていいからね…年金20万円・過保護な母と実家暮らし45年。〈貯金5,000万円〉の通帳を握りしめ、笑みを浮かべる月収29万円・次女が「人生初の一人暮らし」を始めた理由【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

母の“突然の骨折”で、甘えた生活は一変

そんなある日、妹の日常生活が一変する事件が起きます。母が家で転倒し、圧迫骨折をしてしまったのです。

 

入院は免れたものの、母は痛みでほとんど動けません。トイレにはなんとか自力でいけるものの、お風呂は介助がないと難しいようです。これまで母がすべての家事をこなしていたため、妹はなにをしていいのかわからない始末。洗濯機の使い方もおぼつかず、ゴミを出す日もわかりません。料理など至難の業のため、食事は連日コンビニ弁当。週末にAさんが実家を訪れると、家の中が散らかり放題になっていました。妹は不機嫌な顔でソファに座っています。

 

Aさんが片付けを代わりにやってしまうと、今後、妹が甘えてくることは容易に想像できます。そのため、やり方を教えながら手伝うことに。妹はしぶしぶ動きはするものの、動けない母に八つ当たりすることも……。病院代やタクシー代など、予期せぬ出費もかさみ、母の年金だけでは足りず、妹はついに自分の貯蓄に手をつけることになりました。

「恩返しもできないのか」 vs. 「頼んでない」…母妹の泥沼口論

母が動けない生活が3ヵ月も続くと、妹はすっかり疲弊していました。2人分の食事の支度と、掃除や洗濯、母の介護で悪戦苦闘し、イライラが溜まっているようです。一方の母もAさんに電話で愚痴を零すことも増え、母と妹の関係は、日に日に悪化。会話も少なくなっていきます。

 

「いままで自由にさせてあげたのに、恩返しもできないのか。年金で生活費を出してきた分を返してくれたら、施設に入るから」

 

母のこのひと言に、妹は激しく反撃します「私が頼んだわけじゃない! お母さんが勝手に食事も弁当も作ってたんでしょ!」。

 

そして決定的な言葉が。

 

「こんなことなら、一人暮らしをしたほうがマシ!」

 

妹は荷物をまとめて本当に実家を出ていきました。すべての後始末をAさんに押し付けたまま……。

「自立」とは、経済的な問題だけではない

国立社会保障 人口問題研究所の「人口統計資料集」によると、2020年での50歳時の未婚割合は男性28.3%、女性17.8%となっています。20年前(2000年)と比べると未婚率は倍以上。Aさんの妹のような生き方は、もはや珍しいものではなくなっています。

 

しかし、親が子どもの生活を経済的・身体的に支え続ける関係は、今回のように、親の健康問題といった予期せぬ事態で、いとも簡単に崩壊しかねません。それは、新たな「8050問題」の入り口ともいえるでしょう。

 

自立した生活とは、単にお金を持っているかどうかだけの問題ではないのかもしれません。家族という近しい存在だからこそ、互いに甘えが生じやすく、その関係性が破綻してしまう前に、それぞれの生き方をみつめなおすことが重要です。

 

〈参考〉

国立社会保障 人口問題研究所の「人口統計資料集」
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2024.asp?fname=T06-23.ht

 

 

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

共同代表