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隣人トラブル、解決の高すぎる壁
「ローンも返し終わって、あとは穏やかな生活が続くと思っていたのに。今は毎日苦痛で苦痛で……」
最近、太郎さんは原因不明の頭痛に、聡子さんは不眠に悩まされ、心療内科で安定剤を処方してもらうまでになっているといいます。(もう、ここでは暮らしていけない……)そう思って、複数の不動産会社に査定を依頼したこともあるとか。しかし、そこで厳しい現実を突きつけられたといいます。
「隣人トラブルについて正直に話した途端、どの会社も表情を曇らせました。『正直に話していただけるのはありがたいですが、この状況で買い手を見つけるのは極めて困難です』と。売却できたとしても、相場から大幅に値を下げざるを得ないと言われました」
これは「告知義務」という法的なルールが関係しています。売主は、買主の購入判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事柄について、事前に説明する義務があります。家を売る際、隣人トラブルなどの不利な事実も、仲介の不動産業者に必ず伝える義務があるのです。
仲介業者は売主からの情報をもとに買主へ説明するため、もし隠して売却し後で発覚した場合、買主から損害賠償や契約解除を求められる「契約不適合責任」を負うのは、最終的に売主本人。正直に話すことが、リスク回避となります。この責任の根拠は、主に宅地建物取引業法と民法にあります。宅建業法第47条は不動産会社が故意に事実を告げないことを禁じ、民法では「信義誠実の原則(第1条2項)」や「契約不適合責任(第562条〜)」から売主自身の責任が問われます。
ローンを完済したはずの我が家は、売るに売れない「負動産」に……佐藤さん夫婦は、出口の見えないトンネルの中で、ただ絶望するしかなかったといいます。
決して珍しくない隣家の騒音トラブル。騒音に耐え切れず転居する場合でも、その費用を請求することはできません。しかし騒音の受忍の限度を超えており、騒音の原因をなくすように要求しても受け入れられない、などの事情がある場合には、転居費用を請求できる可能性もあります。
また一般人が我慢すべきと考える範囲(受忍限度)を超えた場合、差し止め請求を行うことができます。対応としては「①隣人と直接話し合う」、「②裁判所の民事調停や民間ADRを申立て、第三者に間に入ってもらって隣人と話し合う」、「③裁判所に対して、騒音の原因となっている行為を差し止めるための仮処分を申し立てる」、「④裁判所に対して訴えを提起する」の4つが考えられます。
「いずれにしても、解決のハードルは高いですよね。我慢するのも、引っ越すのも違うとは思っているのですが……」
[参考資料]
e-Gov 「宅地建物取引業法第47条(業務に関する禁止事項)」、「民法第1条(基本原理)」、「民法第562条(買主の追完請求権)」
法テラス『近隣トラブル』