介護は身体・精神面において大きな負担がかかるが、金銭面における負担も無視できない。親の介護費用を子どもが支払うケースが散見される。経済的に余裕がない場合、なあなあにしていた支払いが、時を経て、親子関係やきょうだい関係を壊すトラブルの原因になることも少なくない。そうしたトラブルは極力避けたいものである。旦木瑞穂氏の著書『しなくていい介護』(朝日新聞出版)より、筆者の実体験とともに、「親の介護費用は親が出す」ことの重要性と、事前にできる対策をみていく。
銀行員「息子さんでもお教えできません」認知症・母の部屋から見つけた“8本の印鑑”。間違えれば口座凍結…母本人すら忘れていた登録印を特定した〈意外な方法〉 (※写真はイメージです/PIXTA)

義母の介護費用は「義母のお金」で賄うと事前に決めていた

筆者の義母は、名古屋から川崎市内の同じ区内に呼び寄せてから約8年経った2024年1月、近居していた義母宅で動けなくなっていた。訪れたヘルパーにより発見され、救急搬送された後、連絡を受けた夫が病院へ駆けつけると、脱水症状と筋力の衰えによるものと診断され、約2ヶ月間入院した。

 

入院費用は、夫と義姉が義母の部屋から入院に必要な着替えなどを探して持っていく際に、義母の部屋のあちこちから発掘された現金で賄うことができた。

 

ところが入院中、医師に「もう一人暮らしは難しい」と言われた義母のため、夫は「グループホーム」と「特別養護老人ホーム(特養)」を検討。その間、「介護老人保健施設(老健)」に移ることになったが、入所費用を自動引き落としにする銀行口座を登録する必要があり、登録のための書類には、口座情報欄とともに登録印を押す欄があった。

 

夫は義母を呼び寄せて以来、義姉と話し合い、義母の介護に関わるものは全て義母のお金で賄おうと決めていた。だから老健の費用も当然、指定するのは義母の口座だ。

 

見つかった「8本の印鑑」…書類不備で高まる口座凍結のリスク

夫は義母の了承のもと、義母の部屋で預金通帳などを探すと、本人名義の通帳4つと、夫と義姉名義の通帳1つずつ、そして印鑑8本が見つかった。

 

腰が悪い義母は年々出不精になっていったが、記帳はしていたようで、どの口座がどんな役割で使われているのかを把握するのは簡単だった。だから夫は、老健の費用は年金が振り込まれているメインバンクのものを使えばいいとすぐに判断した。だが、登録した印鑑が8本のうちどれなのかはさっぱりわからない。本人に印鑑8本を見せながら尋ねても「覚えていない」という。

 

仕方がないので夫は、義母宅にあった印鑑で一番使っていそうな印鑑を押して提出。しかし、老健に入所してしばらく経った頃に銀行から「書類不備」という報せが入り、出し直す必要に迫られた。

 

あと7本のうちのどれかが正解なのだろうが、失敗を繰り返したら銀行側が不審に思っても不思議ではない。老健からの自動引き落としに関する書類の不備なら、親族の誰かが本人に無断で手続きを進めているか、あるいは、本人が認知症を患うなどして判断能力が低下しているのではないかと思われるかもしれない。すると最悪の場合、本人の財産を守るために口座が凍結される可能性がある。