「ありがとう」…3,000万円の退職金、穏やかな老後の幕開け
「いい会社員人生でした」
60歳定年で、会社を去る決断をした高橋健一さん(60歳・仮名)。約40年勤めた会社での最後の日は、万感の思いがこみ上げる一日だったと振り返ります。部長や同僚、そして涙ぐむ部下たちからの温かい拍手に見送られる。大きな花束を抱え、何度も頭を下げるなか、達成感と安堵であふれたといいます。
定年を迎え、振り込まれた退職金は3,000万円。決して贅沢ができるわけではありませんが、これだけあれば、築30年を超える自宅をリフォームし、妻とちょっと旅行に行き、年金が支給されるまでの5年間を暮らしていける――そういう算段だったといいます。しかし、そんな穏やかな定年後の生活は訪れることはなかったといいます。
ある日、一通の見慣れない封筒が届きました。それは厚みがあり、A4サイズで、差出人には「XX地方裁判所」と記されています。そして、赤い文字で「特別送達」というスタンプが押されていました。
(……裁判所? )
訝しく感じながら封を開けると、一枚目の書類のタイトルに目が釘付けになりました。
「訴状」
原告は、聞いたこともない債権回収会社。そして被告として、自分の名前がはっきりと記されています。ページをめくり、請求金額の欄に書かれた数字を見て、高橋さんは息を呑みました。
「請求額:金1,250万円也」
身に覚えのない金額、それもあまりに大金。頭が真っ白になり、訴状の文面が理解できません。混乱するなかで、訴状の「請求の原因」の項目に、ある懐かしい名前を見つけたといいます。それは、18年前に、病気でこの世を去った親友の名前でした。