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「かわいいから」が始まりだった
「おばあちゃん、これ買って!」
5年前に夫を亡くし、現在は一人暮らしをしている佐々木美智子さん(72歳・仮名)。その言葉を聞くと、以前の美智子さんであれば断れませんでした。
現在の収入は遺族年金も含めて月16万円の年金のみ。毎月の支出は月13万~14万円ほどで、年金だけで暮らしていけるだけの余裕はあるそうです。
1,000万円を超える預貯金があり、住まいは持ち家。経済的な不安はそれほど強くありませんでした。
厚生労働省『2025(令和7)年 国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯の平均所得は336.1万円(中央値273万円)、高齢者世帯の平均貯蓄額は1,647.6万円で、1,000万円以上の貯蓄を持つ世帯は40.0%に達します。持ち家があり、生活意識を「普通」や「ゆとりがある」とする比較的安定した層(計47.9%)に美智子さんも位置します。
一方で、一人暮らしをする美智子さんにとって、孫との時間はかけがえのないものでした。長女の真理さん(42歳・仮名)には、6歳の息子がいます。週末になると、親子で美智子さんの家に遊びに来てくれるのが習慣になっていました。
「最初は、お菓子を買ってあげる程度でした。1箱200円、スーパーやコンビニなど、どこでも買えるようなお菓子です。『おばあちゃん、あれ買って』と言うので、『はいはい』という感じで買ってあげていました」
しかし、孫が成長するにつれて、要求されるものや要求の仕方も変わっていきます。
「このゲームが欲しい」
「このおもちゃ、みんな持っているよ」
おねだりのたびに美智子さんは財布を開きます。1回数千円程度。決して大きな金額ではありません。月にすると、おもちゃやお菓子などで1万円ほど。
「年金生活なので、何万円も使えるわけではありません。でも、孫が喜ぶ顔を見ると、つい買ってあげたくなったんです」
美智子さんはそう振り返ります。娘夫婦は、普段から高価なおもちゃを頻繁に買わない方針でした。誕生日やクリスマスなど、特別な日にだけ買う――それが家庭のルールでした。
しかし、美智子さんは「かわいそうだから」と、そのルールの外で買っていました。その結果、少しずつ変化が起きました。以前は「ありがとう」と言っていた孫が、次第に「次はこれを買って」と言うようになったのです。
転機になったのは、娘との会話でした。ある日、真理さんが困ったように言いました。
「最近、この子、お店に行くと最初におばあちゃんを探すの」
美智子さんは笑いました。
「甘えているだけじゃないの?」
すると真理さんは首を横に振りました。
「たぶん違うと思う。お母さんなら買ってくれるって分かっているんだと思う」
その言葉が、美智子さんの中に残りました。思い返せば、孫が欲しがったものを断った記憶はほとんどありません。
泣きそうな顔をされると、「今回は特別」と買っていました。でも、それは本当に孫のためだったのか。美智子さんは考えるようになりました。