サラリーマンにとって努力の結晶である退職金。しかし大金がゆえに、その周辺には悪意が渦巻き、思い描いていた老後が一気に崩れ去ることも。ある男性のケースを見ていきます。
「地獄です…」退職金2,000万円を溶かした60歳男性、有名投資家を信じ1ヵ月で資産倍増も、老後破産寸前の悪夢 (※写真はイメージです/PIXTA)

巧妙化する特殊詐欺…SNS型投資詐欺も深刻な状況続く

定年退職でまとまった資金を手にした世代を狙った投資詐欺は後を絶たず、その手口は年々巧妙化しています。

 

警察庁の発表によると、2025年7月末時点、認知件数・被害額は前年同期比で大幅増加。過去最悪だった前年の年間被害額(718.8億円)を超えています。またSNS型投資詐欺については、認知件数3,759件、被害額464.6億円と、極めて深刻な状況が続いているといいます。

 

詐欺師が多用する「元本保証」「高利回り」「あなただけに」「限定公開」といった言葉は、極めて危険なサインです。公的な許可を得ずに元本保証を謳って出資を募ることは出資法で禁止されており、高すぎる利回りには必ず裏があると疑うべきです。

 

では、なぜ山田さんのような真面目な人が、このような話に騙されてしまうのでしょうか。よく言われるのが、退職金を手にした人の心理的な隙。長年、会社という組織に守られてきた人が、定年を機に社会とのつながりが希薄になり、強い孤独感や焦燥感に駆られることがあります。そこに「特別な情報」や「仲間意識」をちらつかされると、正常な判断ができなくなってしまうことがあります。また肩書きや知名度のある専門家の言うことを無条件に信じてしまう「権威バイアス」の危険性を指摘する専門家も。

 

このような悲劇を避けるために、基本中の基本である「うまい話は絶対にない」と肝に銘じること。少しでも怪しいと感じたら、すぐに決断せず、家族や信頼できる第三者に相談するのが鉄則です。

 

「長年働いてきた証である大切な退職金が、一瞬にして消えてしまいました。今はただ、妻に申し訳ないという気持ちと、老後がどうなるのかという不安が大きくて……何とかしようと、仕事復帰に向けて動いているところです」

 

[参考資料]

警察庁『令和7(2025)年7月末における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)』