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退職金2,000万円を投じた夢の城…わずか2年で訪れた暗転
「長年の夢でした」
中田圭吾さん(62歳・仮名)。大手メーカーで40年近く勤め上げ、2年前に定年退職。退職金として手にした約2,000万円を元手に、念願だった蕎麦屋を開業しました。
学生時代から蕎麦打ちが趣味で、いつかは自分の店を持ちたいと夢見ていた中田さん。退職を機に、その夢を実現させることを決意します。物件探しから内装、厨房設備、器選びに至るまで、すべてにこだわり抜きました。都心から少し離れた住宅街に、カウンター席とテーブル席合わせて20席ほどの立派な店舗を構えたのです。
「開業資金として、退職金の半分以上を使いました。やるからには中途半端なことはしたくなかったので、食材にもとことんこだわりました。国産の最高級蕎麦粉を使い、出汁も毎朝丁寧に引く。自分の理想とする蕎麦をとことん追求したんです」
開店当初は、物珍しさも手伝って客足は順調でした。会社員時代の同僚や友人も祝いに駆けつけてくれ、店内は連日賑わいを見せました。しかし、その賑わいが長くは続きませんでした。半年もすると、客足は徐々に遠のいていったのです。
「こだわった分、どうしても価格設定は高めになりました。平日のランチには周辺のサラリーマンが来てくれましたが、夜は閑古鳥が鳴く日も増えました。味には自信がありましたが、それだけではお客さんを呼び続けることはできなかったのです」
売上が伸び悩む一方で、家賃や光熱費、材料費といった固定費は容赦なくのしかかりました。人を雇う余裕もなく、仕込みから調理、接客、片付けまで、すべてを一人でこなす毎日。朝早くから夜遅くまで働き詰めで、体力は限界に達していました。
「売上予測や運転資金の計画が、今思えばあまりに甘かった。趣味の蕎麦打ちと、商売としての経営は全くの別物でした。日に日に減っていく預金通帳を見るのが怖かったですね」
資金繰りはいよいよ悪化し、金融機関からの追加融資も断られました。そして開業からわずか2年、中田さんは閉店という苦渋の決断を下しました。閉店に伴い、店舗の原状回復費用などもかさみ、結局退職金はすべて消えてしまったといいます。
「もう人生終わったと、本気で思いました。家族にも申し訳なくて、顔向けできませんでした」