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恐怖が判断を狂わせる…「狼狽売り」の罠
「これ以上、損をするわけにはいかない。もう売ろう」
誠さんの決断に、美咲さんも頷くことしかできなかったといいます。市場心理が最も冷え込んでいた2022年の末、夫婦は恐怖に耐えきれず、保有していた投資信託をすべて売却。結果、手元に残ったのは約500万円。わずか1年あまりで、大切な老後資金は大きく減ってしまったのです。
最も避けるべきだったのが、誠さんの最後の一言に象徴される、価格が急落したタイミングで恐怖心から売却してしまう「狼狽売り」です。市場は常に上がったり下がったりを繰り返すものであり、長期的に見れば経済成長とともに右肩上がりに成長してきた歴史があります。
誠さん夫婦が恐怖に耐えきれず売却した2022年末は、市場心理が最も冷え込んでいた時期でした。事実、彼らが手放したハイテク株関連のファンドは、2023年以降に大きく回復しています。もし、あのまま持ち続けていれば、資産はかなりの部分を回復し、さらに資産を増やしていた可能性さえあります。彼らは最も価格が安い「底値」で手放してしまったことになるのです。
こうした感情的な取引を避けるために有効な手法のひとつが、毎月決まった日に決まった金額を買い付け続ける「積立投資(ドルコスト平均法)」。この方法なら、価格が高い時には少なく、安い時には多く買うことができるため、平均購入単価を自然と引き下げる効果があります。市場の動きに一喜一憂せず、決まったルールで淡々と買い続ける。もし斉藤さん夫婦が1,000万円を一括で投資するのではなく、時間をかけて積み立てていたら、下落局面はむしろ安く買えるチャンスとなり、精神的な負担もずっと軽かったかもしれません。
「今さら投資の失敗についていろいろ言われても、失ったお金は戻ってこない――もう、投資はこりごりと思っていた矢先、今度は新NISAがスタートして、また資産運用、資産運用ですよ。『もう煽らないでくれ』と……地道に貯金していくのが、性に合っているんですよ、私には」
[参考資料]
金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(令和5年)』