30代未婚者の半数以上が親と同居──。これは、現代日本における、もはや珍しくない家族の形です。しかし、親世代が定年を迎え、セカンドライフへ移行する時期と重なることで、これまで見過ごされてきた“静かな問題”が表面化しはじめています。本記事では片山さん(仮名)の事例とともに、親子が円満に次のステージへ進むための、新しい向き合い方をFP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が提案します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
いつまで子育てが続くのでしょうか…「年金27万円」60代両親の悲痛な叫びに、実家暮らし・月収33万円の30歳次男はきょとん。「なにが悪いの?僕は貯金1,000万円」【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「30代で実家暮らし」の実態

総務省が行った最新の国勢調査の詳細なデータをみると、30~34歳の未婚男性のうち、実に56.9%が親と同居しています。これは人数にすると約95万人にのぼり、この世代の未婚男性の2人に1人以上が、実家で暮らしている計算です(ちなみに、同年代の未婚女性の同居割合はさらに高く、58.7%です)。

 

誠さんのように、独立せずに親元で暮らし続ける30代は、いまや日本の社会においてマジョリティに近い存在といえるでしょう。

 

純一さんも洋子さんも、「親子仲が悪いわけではない」と口を揃えていいます。実際、食事のときなども普通に会話をしているそうです。「65歳でパートを辞めたので、家にいる時間が増えるとイライラすることが増えてしまって」と洋子さん。「私も定年退職して、家にいる時間が増えました。家で妻のストレスが溜まっていくのを目の当たりにして、いい加減どうにかしないとという焦りが出て……。なにより腹立たしく思うのは、誠が、私たちの気持ちをまったく気にする素振りをみせないことです」と純一さんも続けます。

 

誠さんに経済的な問題があるわけでもありません。では、いったいなにが一番の問題なのでしょうか? 根源は、誠さんが抱える「将来への漠然とした金銭的な不安」にありました。

子どもの「自立」を促す、親の最後の子育て

親として手助けできる点は、一方的に自立を促すのではなく、まず「親がこれからどんな暮らしを送りたいか」というビジョンを、正直に息子へ伝えることです。そして、息子の「不安」を解消するために、親が手助けできることがあります。それが、息子のライフプラン、つまり「お金の未来図」を具体的に描き出すことです。

 

将来の不安は、漠然としているからこそ大きくなるものです。そこで、息子の収入や支出、貯蓄額をもとに、独立した場合のキャッシュフローシミュレーションを作成してみることをお勧めします。

 

・一人暮らしの生活費は、具体的にいくらかかるのか?

・いまの貯蓄ペースで、結婚や住宅購入の資金は準備できるのか?

・老後までに、どれくらいの資産を築ける見込みがあるのか?

 

これらの数字を「見える化」することで、息子自身が漠然と抱いていた不安の正体を知り、課題があればそれを認識することができます。

 

もちろん、親が作成したシミュレーションを、子どもが素直に受け入れるとは限りません。しかし、親子が揃って第三者である専門家の説明を受けることで、息子さんも客観的な事実として受け入れやすくなるでしょう。

 

「出ていけ」と突き放すのは簡単です。しかし、子どもの将来への不安を具体的な数字で解消し、自立への自信を持たせる手助けをすること。それが、理想のセカンドライフを手に入れるための、親ができる「最後の子育て」なのかもしれません。

 

〈参考〉

総務省統計局「平成27年国勢調査 世帯構造等基本集計結果」

https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2015/kekka/kihon3/pdf/gaiyou.pdf

「令和2年国勢調査 人工島基本集計結果」

https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka/pdf/outline_01.pdf

 

 

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表