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仏壇の引き出しから出てきた「母の遺言書」
東京で夫と2人の子どもと暮らす、田中久美子さん(45歳・仮名)。10年前に父を亡くし、以来、北海道の実家では母・幸子さん(享年75歳・仮名)がひとり暮らしをしていました。母として妻として、また新卒以来勤めている会社でキャリアを重ねてきたという久美子さんは、常に多忙。それでもひとり暮らしの母を気遣い、まめに連絡をし、長期休みのほかにも実家に帰省し、幸子さんを気遣ってきたといいます。
「物理的な距離はありましたが、できる限りの親孝行はしてきたつもりです。母もいつも『久美子は私の自慢の娘だよ』と言ってくれていました」
幸子さんは、1年ほどの闘病生活の末、75歳で生涯を閉じました。旅立つ前の2週間ほどは、色々と調整し、幸子さんは病院に泊まり込んだそうです。
「こんなに長く一緒にいられたのは、大学進学で上京して以来。穏やかな時間を過ごすことができて、本当によかった」
幸子さんの四十九日を終え、久美子さんが実家の整理をしていたとき、仏壇の引き出しから、母の筆跡で書かれた封筒を見つけました。表には『遺言書』の三文字。
「ある程度、死期を悟っていたんでしょうね。何事もきちんとしていた母らしいなと思いました」
幸子さんが自筆で記した遺言書。そこには、久美子さんを相続人として全財産を譲る旨が書かれていると思っていました。しかし、そこに書かれていた文言に、久美子さんは言葉を失います。
「預貯金のうち、金300万円を田中誠様へ遺贈する」
タナカマコト――。まったく聞き覚えのない名前でした。法定相続人はひとり娘である久美子さんのみ。しかし遺言書には、どこの誰とも知れない人物に300万円もの大金が渡すと記されていたのです。久美子さんの頭は真っ白になりました。