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亡くなった父に、まさかの借金
先日、長年一人暮らしをしていた父親を亡くした鈴木徹さん(58歳・仮名)は、葬儀も終わり少し落ち着いた頃、父親が入院していた病院から事務手続きと入院費用の支払いについて連絡を受けました。
「父が大変お世話になりました。すぐに支払います」
鈴木さんは、病院の窓口へ向かい、亡き父の預金通帳と届出印を使って、未払いだった入院費約30万円を支払いました。生前の父から預かっていたもので、入院中も何度か頼まれてお金をおろしたことがあったからです。お世話になった病院に迷惑はかけられない、その一心での行動でした。
しかし、その数日後、実家の遺品整理をしていた鈴木さんの目に、見慣れない封筒が飛び込んできました。それは、消費者金融からの督促状でした。
「まさか、父に借金なんて……」
慌てて他の郵便物も確認すると、複数の金融機関からと思われる封筒が次々と見つかりました。その合計額は2,000万円。父が遺したわずかな預金をはるかに上回るものでした。
「プラスの財産よりも借金のほうが多いのなら、相続を放棄しなければ、我々が借金を背負うことになる。すぐに手続きを調べよう」
妻と話し合い、鈴木さんはすぐさま相続放棄について調べ始めました。しかし、インターネットで情報を集めるうちに、ある一点で血の気が引くのを感じたといいます。
「“亡くなった人の預貯金から入院費などを支払うと、相続放棄が認められなくなる可能性がある”と書かれていました。私が病院に支払った、あの行為のことです。良かれと思ってやったことが、まさかこんな事態を招くとは……」
近年、鈴木さんのようなケースは決して珍しいものではなくなっています。裁判所の司法統計によると、2023年に全国の家庭裁判所が受理した相続放棄の申述件数は28万2,785件にのぼり、年々増加傾向にあります。誰もが直面しうる問題だからこそ、慎重な対応が求められるのです。