思考力=試行力(試行錯誤学習)を意識する
私は、「思考力」は試行錯誤の「試行力」だと受験生に話しています。理系科目での試行の流れは次の通りになります。
第1段階 情報や式を整理する
応用問題では設問に合わせて立てた式がとても複雑だったり、問題文が長く内容がつかみにくかったり、初見の実験で実験結果が複雑でわかりにくかったりすることもあります。
そのような場合は、式や情報を整理し、考える「手がかり(ヒント)」を見つけやすくするところから始めます。
例えば、「複雑な式を整理してわかりやすくしたり、グラフや図に表して視覚化したりする」とか「複雑な実験データは、基準となる対照実験を決めて、比較する表を作って整理する」など、科目ごとに複雑な出題を考える「手がかり」をつかむための工夫があります。まずは、これを意識的にできるようにしましょう。
第2段階 先の展開を推測して仮説(方針)を立てる
思考力を要する問題では、実際の入試の場面でも、与えられた情報、資料、データなどから、「チャートのあの基本例題の考え方を使えそうだ」とか「セミナー化学のあの計算問題の考え方が使えそうだ」というように、自分なりの仮説を立てて考えを進めることになります。ですから、できるだけ速く・正しく仮説を立てられるようにする必要があります。そのため、思考力を要する問題に取り組むときは、まず「仮説」を立てて考えるようにしましょう。
このとき、その「仮説」を立てた根拠は必ず意識してください。「仮説」の立て方としては、次の3つの型があります。
上記の①と②を組み合わせたり、①と②の間にどんな解法を組み込めばこの2つの間がつながるかを考えたりするなど、思考の流れをフローチャートにすると明確になります。①と②だけで考えに行き詰まったときは、③の出題者の意図を意識すると「手がかり」が見つかるかもしれません。
東京の御三家と呼ばれる難関の私立大医学部に合格した生徒も、もともとは数学が苦手でしたが、レベルの高い問題集に取り組む際、問題を解くだけでなく、実際にフローチャートを書きながら、問題を解く流れを整理する練習を積むことで、劇的に応用力を伸ばしました。
第3段階 立てた仮説を検証する
仮説を立てて問題を解いたあとは、自分の仮説の根拠を検証することで、より早く正しい仮説を見つける「手がかり」を確認します。
実は、上図の右例のように自分の仮説が誤っていたときのほうが、間違えやすいポイントも確認できるので、今後正しい仮説を立てるための情報が多く得られるはずです。間違えたことで自分はだめだと否定的に考えることはありません。間違いに向き合うことで、確実に思考力は身についていきます。
このように、1 . 整理する → 2 . 仮説を立てる → 3 . 検証する を繰り返すことで思考力を要する問題への対応力を確実に高められるのです。
思考力を身につけるために使う問題集は、問題数がそれほど多くないものがほとんどです。
例えば、物理では『名問の森 物理 力学・熱・波動Ⅰ』『名問の森 物理 波動Ⅱ・電磁気・原子』 (ともに河合出版)が定番ですが、2冊合わせても140問ほどです。これらの問題の考え方がしっかり身につけば、医学部レベルの物理の出題であれば、合格点をとれる力がついているはずです。
したがって、思考力の訓練にかけられる時間をこの問題数を参考に設定し、思考問題を解くために必要な①基礎知識、②補助知識を定着させることにしっかり時間を使えるようにしてほしいと思います。何度も繰り返しになりますが、これらの定着は、丸暗記ではなく、必ず「正しい理解」を伴った定着になるよう、丁寧に取り組んでください。応用力は基礎を確実に身につけたうえで意識して訓練しないと、習得できません。
ですから、医学部入試だからといってやみくもに難しい問題集に手を出すのではなく、まずは①基礎知識と②補助知識の理解と完全定着にしっかり取り組んでほしいと思います。
また、応用レベルの問題になると論述・記述式で解答するものが多くなります。医学部に合格するためには「合格答案作成」も意識して学習を進めてほしいと思います。たとえ答えが合っていても、その過程を説明する記述が単なる式の羅列になっていたり、証明問題で説明が不十分だったりすると減点されてしまいます。
また、化学や生物でも200字を超える論述・記述問題がありますが、考え方は正しいのに、答案作成(論述・記述)がうまくできない人もいます。こういった受験生は、答案作成力(論述力・記述力)を身につける必要があります。出題に合わせ ①答案に表記すべき内容を整理し、②論理的に構成を組み立てることを意識して、答案作成の練習をしてください。特に、論述・記述問題の解答の仕方に不安がある受験生は、採点基準を意識した答案の書き方や、減点されない答案の書き方、つまり、「合格答案作成」の仕方を、高校の先生や塾・予備校の講師に添削指導してもらうことをお勧めします。自分が書いた答案を修正してもらいながら、表記すべき情報の整理の仕方や論理的な構成の組み立て方について指導を受けることで、短時間で効率良く論述力・記述力を身につけられます。
その意味ではメディカルラボのマンツーマン授業は応用レベルの学習にも効果を発揮します。マンツーマン授業であれば、毎回確実に論述・記述問題の答案の添削指導を受けられます。
また、集団授業では、たとえ少人数だとしても思考力・応用力について講師から教えてもらえる内容は限られています。こうした授業では講師から生徒への「一方向」の指導となるため、模範となる考え方や解法を一方的に提示するだけになってしまいます。
これでは講師が生徒一人ひとりの思考プロセスの課題点を把握し、それを直接修正することができません。思考力が必要な問題の解説授業を受けたとしても、その解法をただ覚えるだけでは、他の問題に応用できず、思考力・応用力が身につくことはありません。
講師の解説から、どのようなプロセスを経てこれらの解法の組み合わせを導き出したのかを考え、そのプロセスを再現できるようにしなければいけないのです。
そのためには授業を活かして、生徒自身が試行錯誤を繰り返しながら思考力を伸ばす練習をすることが必須です。だからこそ、「思考力=試行力」とも言えるのです。しかし、「一方向性」の授業では、授業中にこういった練習ができません。それに対し、「双方向性」のマンツーマン授業であれば授業中に「試行練習」ができ、その中で講師が直接、生徒の思考のプロセスを修正するとともに、考える「手がかり」を見つけるための新しい視点を身につけさせることができます。生徒一人ひとりの試行錯誤学習を直接サポートできるので、思考力・応用力を身につけるのに最適な指導法なのです。
可児 良友
医系専門予備校メディカルラボ 本部教務統括


