1月下旬は「戦略」が問われる時
私立医学部の出願がほぼ終わり、国公立大学志望者は共通テストを終えて自己採点を済ませる。1月下旬は、前期・後期をどうするかを考えながら、本番までの残り時間をどう使うか決めなければならない時期だ。
直前期の学習について、山本氏は次のように語る。
「もう志望校は決まっている時期なので、過去問をどれだけやれるかが大事になります」
多くの受験生は「まだ足りない」「もっと勉強しなければ」と焦りがちだ。しかし、医学部入試を長年見てきた立場からすると、この時期に重要なのは限られた時間を、最も得点につながる行動に使えているかどうかだ。
合否に最も影響する科目はどれか
医学部入試や難関大入試では、すべての科目を満遍なく仕上げなければならないと考えがちだ。しかし、配点構造を冷静に見ると、大学側がどの科目を重視しているかは明確に表れている。
「国公立でも私立でも、英語と数学の配点が高い大学が圧倒的に多いんです。模試の合否追跡データを見ても、英数が安定して取れている受験生の合格率は明らかに高いですね」
山本氏によれば、理科は差がつきやすい科目である一方、大学側はその点を踏まえて配点をやや抑えているケースも多いという。
「理科は、現役生と浪人生、あるいは中高一貫校と一般的な高校の間で、どうしても差がつきやすい科目です。大学としても、その差が合否を決定づけすぎないよう、英数に比べて配点を抑えている面があります」
理科は「直前期まで伸び続ける」科目
ただし、理科については「差がつきやすい」で終わらせてはいけない。山本氏は、直前期における理科の特性について、次のように指摘する。
「理科は、最後まで学力が伸びる科目なんです。英語や数学は、ある程度できあがると、そこから大きく伸ばすのが難しくなりますが、理科は違います」
その理由として、山本氏は高校教育の構造を挙げる。英語や数学に比べ、理科は授業時間数が少なく、進度も遅れがちだ。特に公立高校の現役生では、受験範囲の学習が12月初旬まで続くことも珍しくない。
「だからこそ、2月に入ってから一気に点数を伸ばす受験生も多い。国公立前期試験の直前まで、理科は伸びます。ここで『もう間に合わない』と諦めてしまうのは、本当にもったいないですね」
直前期の学習は「過去問に始まり、過去問に終わる」
少なくとも第1志望大学の過去問は5年分以上
では、直前期にやるべき具体的な学習は何か。山本氏の答えは明快だ。
「もうこの時期は、過去問演習に集中するしかありません。志望校はほぼ決まっているはずですから、その大学の問題をどれだけ深く理解できるかがすべてです」
メディカルラボでは、「過去問に始まり、過去問に終わる」という言葉が、直前期の学習方針として共有されている。新しい問題集に手を広げるのではなく、志望校の過去問を通じて、出題レベルや試験の特徴を体に染み込ませていくことが重要になる。
過去問は何年分解けばよいのか。第一志望校について、山本氏は明確な目安を示す。
「最低でも5年分は解いてほしいですね。同じ大学でも、年度によって出題者が変わったり、科目によって難易度が極端に変わったりしますので」
1年分や2年分では、その大学の特徴はなかなか見えてこないという。
「5年分ぐらい解いておくと、だいたい分かってきます。たとえば数学なら『ここは整数問題が好きなんだな』とか、物理なら『原子分野をよく出すな』とか。そういう傾向が見えてきます」
複数年分を比較することで、大学ごとの出題傾向や、得点差が生じやすいポイントが浮かび上がってくる。
併願が多い場合は「重点対策校」を決める
一方で、併願校すべてを同じ密度で対策するのは現実的ではない。
「私立医学部専願だと、8校、10校と受ける人もいます。そのすべてで5年分の過去問をやるのは無理です。だからこそ、重点的に対策する大学を決める必要があります」
すべてを完璧にやろうとするのではなく、力を入れる大学と割り切る大学を分ける。その判断こそが、直前期の戦略になる。
合格最低点を意識する「合計点主義」
そして過去問演習で特に重要になるのが、合格最低点を意識するという視点だ。
「医学部受験生は真面目な人が多いので、『全部解かなきゃ』『満点を取らなきゃ』と考えてしまいがちです。でも、合格に必要なのは満点ではありません。合格最低点を超えることです」
山本氏は、これを「合計点主義」と説明する。合計点主義とは、各大学が公表する合格最低点を意識して、どの科目に力を入れるのかを考えて学習計画を立てることを指す。
「難しすぎる問題は、捨てていいんです。むしろ、確実に取れる問題を落とさないことのほうが大事。どの問題を取り、どの問題を捨てるか、その判断も含めて試験対策です」
問題を解く順番についても、過去問演習の中で検証しておく必要がある。
「最初の問題から順番に解く癖がついている人は多いですが、必ずしもそれが最適とは限りません。一番最初に、いきなり難問が置かれているケースもありますから」
過去問集の解答も「絶対」ではない
過去問演習で多くの受験生が使う大学別の過去問集についても、山本氏は注意を促す。
「特に理数系では、過去問の解答が間違っていたり、実際の試験では使いにくい解法が載っていたりすることがあります。解答を見ても納得できないときに、何時間もそこで悩み続けるのは非効率です。可能であれば解答した答案を第三者に添削してもらえるといいですね」
直前期に「やってはいけない」こと
最後に、山本は直前期にやってはいけない行動についても強調する。
「共通テストが終わると、どうしても気が抜けてしまう人がいます。でも、共通テスト翌日から国公立前期試験までは、まだ1ヵ月以上ある。この期間の使い方が、特に現役生にとっては本当に重要です」
新しい問題集に手を出したり、志望大学のレベルを大きく超える難問に挑戦したりするのは、直前期には適さない。
「それよりも、志望校の過去問を通じて、自分がどこで点を取れるのか、どこで落としやすいのかを冷静に把握し続けることが大切です」
現役生は試験前日まで学力が伸びる可能性がある。早くから諦めてしまうことこそが、最大の失敗だと山本氏は言う。
直前期の学習で求められるのは、新しい知識を増やすことではなく、これまで積み重ねてきた力を、合格点につなげるための整理と取捨選択と言えそうだ。

2026年度入試、2つのポイント
2026年度の医学部入試においては、直前期の学習戦略に加えて、制度や日程面で押さえておきたいポイントが二つある。
一つ目は、共通テストが新課程となって2年目を迎える点。初年度と比べて出題の方向性が固まり、難化する可能性が指摘されている。これまで以上に、科目ごとのバランスを意識した対策が求められる。
二つ目は、個別学力試験の日程だ。文部科学省の方針を受け、個別試験を2月以降に実施する大学が増えたことで、一次試験の日程が重複するケースが目立っている。その結果、受験校の組み合わせによっては、例年よりも合格しやすくなる大学が出てくる可能性もある。
「2026年度入試では、学力対策だけでなく、受験校の選定や日程を踏まえた戦略的な判断が、これまで以上に重要になる」と山本氏は力を込めた。
後編では、学科試験とは異なる視点から評価される面接・小論文や、大学ごとに異なる人物評価の考え方について、山本氏の話をもとに解説する。
山本 雄三
医系専門予備校メディカルラボ 情報研究所所長

